寅さんの町もついに…柴又駅前に再開発の波、山田洋次監督も言及「昔の姿とどめて」

2020年12月31日 09時00分

商業施設の建設が進む柴又駅前広場で青木克徳区長(左)と話す山田洋次監督=18日、東京都葛飾区で

 映画「男はつらいよ」でおなじみの京成柴又駅(東京都葛飾区)の駅前再開発で、昭和ムード漂う飲食店が軒を連ねた一角が取り壊され、現代的な商業施設の建設が始まった。親しまれた景観を一変させる計画には当初から異論があり、曲折を重ねての着工となったが惜しむ声がやまない。山田洋次監督(89)も「柴又の良さが失われる」と懸念を示し、工事途中にもかかわらず計画は再考を迫られた。(加藤健太)

◆風情あるレトロな店が全滅

 半身で振り向く「寅さん像」と見送る妹の「さくら像」が立ち、「柴又駅」の看板を掲げた瓦屋根の駅舎が目を引く駅前広場。柴又帝釈天の参道の起点となり、映画の舞台の玄関口ともいえる場所だ。
 この広場には昨年まで、居酒屋やコーヒースタンド、今川焼き店、立ち食いそば店などレトロな平屋店舗が立ち並んでいた。

工事が始まる前、2014年の柴又駅=東京都葛飾区で

 映画シリーズが始まった半世紀以上前と変わらぬ光景を伝え、寅さんファンのみならずB級グルメのマニアにも愛されていたが、老朽化を理由に、地権者の京成電鉄は再開発を決めた。

◆京成の計画に反対続出「かえって不自然」

 ただ、一帯は帝釈天の参道などとともに、「風景の国宝」とも呼ばれる国の「重要文化的景観」に選定されている。文化財保護法に基づき生活に根ざした風景を守る制度で、開発などで現状が変わる際は文化庁に届け出なければならない。
 関係者によると、京成の当初案は総2階建てだったが、文化庁への届け出前に諮った区の有識者会議で「建物に遮られて駅前から帝釈天の参道を望めなくなる」と反対の意見が出た。木目調のデザインだった外壁も「人工物を自然物のように見せるのはかえって不自然」と指摘された。
 このため京成は2階は一部だけとし、広場を埋め尽くすように配置していた施設の規模も大幅に縮小。外壁はクリーム色にした。数回にわたる設計変更の後、計画は文化庁に受理され、2019年7月に着工した。

2020年12月、商業施設の建設が進む柴又駅前広場

◆建設現場を訪れた山田監督は…

 山田監督は今年9月に現場を訪れた。「駅に入る電車や『柴又駅』の文字が建物に遮られ、見えなくならないか」と不安を口にした。しかし、建物の骨組みは出来上がり、電車は広場から見えない造りになった。「建物が変えられないなら、せめてお年寄りが休めるベンチや殺風景にならないように花壇をつくってほしい」。監督の思いは、青木克徳区長が代弁して京成側に伝えた。
 京成の広報担当者は「社内的な検討事項の公表は差し控える」とするが、12月に発表された新たな駅前広場のイメージ図には、ベンチや花壇のイラストが描き込まれていた。一部2階建ての2棟(延べ約420平方メートル)が来年6月までに順次オープン。広場にあった立ち食いそば店、今川焼き店、居酒屋も入る。

新しい柴又駅前広場のイメージ図=京成電鉄提供

 山田監督は今月18日、ホームの柱などを寅さんの名せりふなどで彩る柴又駅の「寅さん装飾」披露式典に出席。小林敏也社長ら京成関係者が列席する中、あいさつで再開発計画に言及し「昔を知る僕は急激に風景が変わってほしくない思いがとてもある。柴又の街はいつまでも昔の姿をとどめてほしい」とあらためて求めた。

2020年12月、寅さん装飾披露式典に出席した山田洋次監督。右は京成電鉄の小林敏也社長

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