<民主主義のあした>「新しい風は女性議員から」 デビ―・ウォルシュ「アメリカ女性と政治センター」所長

2021年1月3日 06時00分
 昨年11月の米大統領選と同時に行われた連邦議会選では、史上最多の女性候補が当選した。トランプ政権の4年で分断が進み、民主主義の危機に直面する米国で、女性が果たす役割とはー。ニュージャージー州立ラトガース大のアメリカ女性と政治センター(CAWP)のデビー・ウォルシュ所長にオンラインで話を聞いた。(聞き手=ニューヨーク・杉藤貴浩)

◆女性蔑視発言繰り返すトランプ氏が大統領→女性が政治に目覚めた

 記録的な女性議員の増加はトランプ大統領のおかげでもあります。「スター(トランプ氏)なら女に何でもできる」などと女性蔑視の発言を繰り返す人物が大統領になってしまったため、大勢の女性が政治に目覚めました。トランプ氏が破った相手が、多数の女性が彼よりはるかに優秀だと考えていた女性政治家ヒラリー・クリントン氏だったことも大きいでしょう。

「女性の政治参加が民主主義の多様性を生む」と語るデビー・ウォルシュ氏

 実際、4年余り前の大統領選の翌日、政治参加を希望する女性たちからの問い合わせで、私たちCAWPの電話は鳴りやまなくなりました。
 結果として、2018年の中間選挙、昨年11月の議会選で女性が躍進。連邦議会(上下両院で定数計535)の26%に当たる141人が女性議員になりました。背景には性被害や性的嫌がらせを告発する「#MeToo(私も)」運動の影響もあるでしょう。
 女性議員が増えれば、民主主義に多様性をもたらします。新型コロナ危機を例にすると、在宅勤務が増えたにもかかわらず、家事や育児、介護の負担は男性より女性に偏ったまま。その結果、女性の離職も多いのが現実です。女性議員はこうした体験を政策決定に反映できます。
 以前、トランプ氏と議会指導者らが女性の健康問題についての施策を議論する場面を見ましたが、テーブルに座っていた全員が高齢の白人男性でした。これでは実りある話し合いをすることは難しいでしょう。

◆ハリス次期副大統領が少女や有色人種に勇気、政策に多様性を与える

 世界に目を向けると、ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダン首相は新型コロナ対策で、国民への共感をもとに指導力を発揮しました。米大統領はしばしば「コマンダー・イン・チーフ(軍の最高司令官)」と呼ばれますが、彼女たちは「ケアギバー・イン・チーフ(主任介護士)」とでも言うべき役割を果たしました。
 私たちの研究でも、女性政治家は政党の枠を超え、妥協点を見つけようとする傾向が強いことが分かっています。党派や人種、格差の分断が進んだ米国では、女性の力が民主主義の再生と強化に大きく寄与するはずです。政界や政府に女性が少ない分だけ社会は才能や創造性を失っているとも言えるのです。
 カマラ・ハリス上院議員が女性、黒人として初の副大統領に就任することも大きな意味をもちます。彼女の勝利は女性や少女、中でも有色人種の女性たちに力を与えました。バイデン次期大統領はハリス氏を飾りの副大統領ではなく、重要な政策決定に深く関与させる考えを示しています。いずれ彼女が初の女性大統領になる可能性もあります。
 移民の両親から生まれたハリス氏が副大統領候補の指名を受けた時、トランプ氏は出自の問題を持ち出して攻撃しました。彼女は今後、人種と性別という2つの差別に直面するでしょう。でも、彼女は既に自身のキャリアの中で差別を体験しており、今回も乗り越えられると思います。
 バイデン氏が、政権の要職に多くの女性や非白人、同性愛者らを任命していることも、民主主義の多様性につながります。それは、米国の現実の姿を政権に反映させることになるからです。バイデン氏はスタッフの声に耳を傾けるタイプですし、多様な声は彼の政策に生かされるでしょう。

◆「日本の少女たち、声を上げて」

 もちろん、米政界への女性進出には課題もあります。下院は民主党議員の約40%が女性になりますが、共和党はわずか約13%です。「女性は感情的」という固定観念も根強くあります。自分の信念に従って何かに立ち向かうと、男性なら「力強い人」と評価されますが、女性の場合は「金切り声でわめいている」と受け取られかねません。
 私は日本の専門家ではありませんが、国会(衆議院)議員の女性比率が約10%と低いのは米国の民主党に比べ、女性の進出が遅れる共和党に似た体質があると感じます。つまり女性の役割を家事などに見いだし、政界進出への道を狭めてきたということです。
 それを打破するには有能な女性を発掘し、支援する力強い取り組みが求められます。日本でも候補者や議員の一定枠を女性に割り当てる「クオータ制」がうまく機能するはずです。
 米国では昨年、女性の参政権獲得から100年が経過しましたが、平たんな道のりではありませんでした。最初のころは南部の黒人女性や先住民は実質的に投票できなかったし、女性議員や候補者の増加が停滞した時期もありました。それでも女性の政治参加を後押しする「エミリーズ・リスト」のような団体が資金面などで地道な支援を続けてきました。
 民主主義社会でいずれ重要な役割を担う日本の少女たちには「声を上げて」とメッセージを送りたい。女性が過小評価される国や社会に成長する余地はありません。政治に限らず、ビジネスや芸術、教育など全ての分野においてです。未来は彼女たちのものだと伝えてあげたい。

デビー・ウォルシュ ラドガース大院修了(政治学)。1981年にCAWPに入り2001年から所長。女性と政治に関してメディア出演も多く、米非営利団体による「21世紀のリーダー21人」に選ばれた。CAWPはこの分野で全米屈指の研究データを持つ。

   ◇
 民主主義が揺れている。時計の針を逆に進めるかのように、世界各地で非民主主義的なリーダーが増え、政府による情報統制や、市民の自由の制限がはびこる。その中で、私たちの民主主義にあしたはあるのか。内外の識者に聞く。

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