コロナ禍で変わる働き方、「職場と家庭で男女平等を」 リンダ・グラットン教授インタビュー

2021年1月1日 06時00分

リンダ・グラットン教授(写真はいずれも本人提供)

 新型コロナウイルスは人類にどんな影響を与えたのか。長寿社会の新たな生き方を提唱する英ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、コロナ禍は労働形態や格差、家族関係など「未解決の諸問題をあらわにした」と指摘する。その上で「新たな展望を開く時」と世界的な危機を変革の機会にするよう呼び掛ける。(ヨーロッパ総局・藤沢有哉)

◆家族を犠牲にしてきた日本

 ―コロナ禍で浮き彫りになった問題とは。
 「日本には特に関係するが、最も大きいのは『働き方』だ。『仕事はオフィスで長時間過ごすもの』で、家族や生活を犠牲にしていた。ただ、都市封鎖(ロックダウン)で在宅勤務が可能と分かると、当然だった前提に疑問がわいた
 「そして貧富の格差。現場作業の労働者が多く、大家族で暮らす貧困層のコロナ罹患率は世界各国で高い。介護部門など一部を除き、機械化の進展で単純作業の就業機会が減る恐れもある。貧富の格差は気候変動に次ぐ大問題となる

◆高齢世代もデジタルスキルを

 ―コロナ禍を経たこれからの暮らし方は。
 「人類の平均寿命は10年ごとに2歳延びており、今は『人生100年時代』。借金を重ねずに暮らし続けるには70歳以上でも働く準備が必要だ。高齢世代もインターネットを活用したデジタルスキルを向上することができ、私の85歳の友人もネットでおしゃべりする。定年年齢を引き上げる方針のシンガポールは高齢者も含めて技術習得を支援しており、スキルアップの場をつくることも大切だ」
 「在宅勤務の経験により、特定の日だけ出勤するハイブリッド式の働き方が普及するだろう。これは各国で大都市への一極集中を打開する機会にもなる。英国はロンドン、日本は東京に企業も人も集まり、他の都市は活気がない。企業は小規模な『サテライトオフィス』を各地に設けて職場を分散させ、政府も補助金で支援する。さらに地方のインターネット環境を向上させれば、従業員は好きな街で暮らせる」

◆地域の絆が大切に

 ―そのために必要なことは。
 「コロナに感染すると、肥満や基礎疾患がある人は重症化しやすかった。高齢でも働く可能性がある以上、『健康』は重要だ。そして、職場と家庭での男女平等の実現。収入を確保するには共働きが有利。在宅勤務が進めば女性は働きやすくなるが、男性の価値観の転換、思いやりが必要だ。また、コロナ禍では地域の支え合いの重要性も分かった。自宅で過ごす時間が長くなるのを機に職場から地元へと人間関係づくりの焦点を変えなくては
 「5歳の私の孫が100歳まで生きれば、世界は新たな感染症に襲われるかもしれない。少なくとも、気候変動には脅かされるだろう。長く生きれば大惨事に遭う可能性は高く、そのたびに『回復力』が問われることも認識する必要がある」

◆移民は社会の活力

 ―欧州では移民排除の機運が再び起きた。
 「移民は欧州社会で役割を持つ。既に重要な一部。高齢化が進む欧州諸国では、起業も含め労働力を若い移民に頼っている。新型コロナのワクチンを米大手製薬会社ファイザーと共同開発したドイツ企業は、トルコ系移民家庭の出身者が設立したのは印象的だ。(人材や文化の)融合を止めてはいけない」

 リンダ・グラットン 人材論、組織論の世界的権威で、世界の経営思想家ランキング「シンカーズ50」の常連。「人生100年時代」と称した高齢化に対応した働き方や生き方を提唱、邦訳された著書「ワーク・シフト」は2013年のビジネス書大賞を受賞。ベストセラーの共著「ライフ・シフト」では人生100年時代の生き方を提示した。17年には日本政府の「人生100年時代構想会議」議員に招聘された。65歳。

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