林家木久扇・年男83歳 知恵「ギュー」と絞って、めげずに「モー」進!

2021年1月3日 07時27分

「KIKUKIN TV」の収録をする林家木久扇=昨年11月、東京都千代田区で

 二〇二一年、文化娯楽面はこの人で幕開け。人気番組「笑点」のおバカなキャラクターでおなじみ、落語家の林家木久扇(83)はいつでも時代を読み、果敢にチャレンジし続けている。最近はユーチューバーとしての顔も持つ。多芸な文化人、ビジネスでも才覚を発揮する大御所は丑年(うしどし)生まれの年男。「いやんばか〜ん」と脱力ギャグの一方、コロナ禍に苦しむ世間に「知恵を牛(ギュー)ッと絞って、めげずに生きよう」と前向き思考を呼び掛ける。 (ライター・神野栄子)
 「ろくろ首、うどんに化けてろくろーさん」「雪女、口説いてみたらすぐとけた」…。昨年十一月、東京都内のスタジオ。「ユーチューバー木久扇」がネット配信する動画の撮影で、駄じゃれを連発していた。
 二〇一九年十二月、人気ユーチューバーHIKAKIN(ヒカキン)の指導を受け、「KIKUKIN TV」と題した自身の動画投稿サイトを開設。「笑点」出演五十周年の記念に番組からプレゼントされて始めた企画で、オリジナルのネタを随時収めている。

寄席でも大人気=昨年11月、東京都台東区の浅草演芸ホールで

 
 「一回四、五分にまとめ、楽しく作らないとね」とユーチューバーがすっかり板についている。得意の漫画も交えるなど、毎回趣向を凝らした内容で、未就学児から高齢者まで世代を超えて親しまれている。ギャグや駄じゃれは思い付いた瞬間、絵(イメージ)が頭の中に浮かぶという。紙芝居のような「木久扇漫画」の世界観に「ほかの落語家にはできない。それでとても得しているんです、ワハハ」と笑い飛ばす。
 スーパー八十三歳はいつも謙虚で、誰にでも優しい。そんな温かいまなざしで人々や時流を見据え、楽しいことや商機を考えている。これまで訪れた転機をプラスにとらえ、生きる糧にしていった。
 絵が得意で、高校卒業後は「かっぱ天国」などの作品で知られた漫画家の清水崑(一九一二〜七四年)に師事した。「絵が描けてしゃべれたら売れるぞ。落語をやってみたら」と師に勧められ六〇年八月、三代目桂三木助(一九〇二〜六一年)に入門。「口の商売だからうまいものを食え。口がおごってないと、さもしい噺(はなし)になる」と教えられた。
 しかし、程なくその大名人は死去、今度は八代目林家正蔵(一八九五〜一九八二年)の弟子になった。後に彦六を名乗った“古典の鬼”からは「金はためるな」との金言を授かった。その真意は「人のために使え」という哲学だ。その師に仕えた日々から鉄板の一席「彦六伝」が生まれた。爆笑と心温まる秘話が満載の噺には鋭い観察眼と、師への思慕が凝縮している。

ラーメン愛も人一倍。1987年、茨城県内に開店した店の前で

 漫画修業で磨いた絵の技術、昔の映画への造詣、巧みな物まね…すべてが生きる術(すべ)になった。そのセンスは「木久蔵ラーメン」などのビジネスにも生かされた。ラーメン、ナポリタン、せんべい…。最近は「ラーメンてんぐ」のキャラクターでTシャツやマスクも手掛けた。「くまモンみたいに自由に使ってください。使用料はいただきますが、ガハハ」と屈託ない。
 独特のゆる〜い雰囲気を発するが、芯は強い。二〇一四年に喉頭がんが見つかった時も「絶対に負けない」と闘った。七歳の時、東京大空襲で命からがら逃げたあの時の恐怖と比べたら「何でもない」。豊かなアイデアで楽しくタフに生き、そして平和を願う。それが木久扇の流儀だ。
 現在弟子は十一人。落語人気で噺家は増え続けていて、厳しい競争に直面する弟子にはしなやかにたくましく生きていくよう説く。「稼げなくちゃだめ。落語以外もいろいろやらないとね」。そのイズムは浸透し、彦いち(51)は「アウトドアの達人」として、ブームのキャンプの指導者としても忙しい。ひろ木(41)は三味線の技術を磨くほか、小学校の臨時教員としての顔も持つなど多士済々だ。
 「生きることにめげちゃいけない。そして、収入がついてこないと人間イキイキしない。長生きの秘訣(ひけつ)です」。自身の人生訓に基づく言葉は、長引くコロナ禍で悩み苦しむ人たちへのメッセージでもある。
 昨年は「木久扇のチャンバラ大好き人生」(ワイズ出版)=写真、生き方の伝授になる「イライラしたら豆を買いなさい」(文春新書)と著書を相次いで出した。年男イヤーは、延期になっていた「芸能生活六十周年記念公演」の仕切り直しが三月十六、十七日、東京・明治座である。厳しい世の中であっても、チャレンジは続く。好機を探し、ウッシッシ〜と猛(モ〜)進する。

◆ゴルゴ13も驚く!?ものすごい目 親交50年 さいとう・たかを

 木久扇と五十年以上の親交がある漫画家さいとう・たかを(84)が、代表作の大巨編「ゴルゴ13」の主人公のごとく、鋭い眼光で射抜くと−。
 私の中では同業者という印象が強いです。僕はものすごい映画マニアで、「紙で映画みたいなものを作ろう」とこの世界に入った。(出版社で)師匠に初めて会った時、「この人に悪役やらせたらいいな」と思った。ものすごい目をするんです。落語の人の目じゃない。お会いして話している時はとにかく真面目なんですよ。でも「笑点」を見ていると、全く違う。あのとぼけた感じ、あのボケはなかなかできません。すごい芸だと思っています。
 師匠は絵を描いても、ただのギャグ漫画じゃない、温かいでしょ。人柄の良さが出ているし、憎めないところは絵にも芸にも表れているんですよ。あの人の周りにはいつも多くの人が集まってくることもよく分かるんです。
 真面目さも含めて、魅力の塊みたいな人。木久扇師匠はわれわれ世代の「希望の星」ですから、ますます頑張ってほしい。
 「ゴルゴ13」は団塊の世代が二十歳前後の時に始まり、その読者が今も読んでくれています。私も師匠に負けずに頑張らんと。 (談)

関連キーワード

PR情報

芸能の新着

記事一覧