<民主主義のあした>「コロナ禍で急増、オンライン署名を発信手段に」 署名サイト「Change.org」日本版の武村若葉代表

2021年1月3日 18時28分
 誰でもネット上で署名を集められるオンライン署名や会員制交流サイト(SNS)での若い世代の訴えが、社会や政治を変える原動力になりつつある。選挙以外の「民主主義を支える新たな芽」として定着するか。米国発の署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」日本版代表、武村若葉さん(37)に聞いた。(聞き手・奥野斐)

◆拡散する「オンラインデモクラシー」

 コロナ禍で昨年、オンライン署名やツイッターデモをきっかけに、社会や政治が動く「オンラインデモクラシー」が一気に広がったと感じています。

「おかしいことは言わないと現状維持になってしまう」と語る武村若葉さん

 「チェンジ」は署名を募るだけでなく、社会課題を知り、人とつながり、賛同したり情報を拡散したりできる。問題への共感や思いを可視化し、発信するツールを目指しています
 「チェンジ」で始まった東京高検の黒川弘務元検事長の辞職を求めるオンライン署名は賛同が35万を超え、ツイッターでは「#検察庁法改正案に抗議します」との投稿が拡散し、世論の強さを示せた好例でした。森友学園問題に絡み、財務省による決裁文書改ざんに関する再調査を求める署名には、日本版開設以来最多の37万超の賛同がありました。いずれもネットゆえのスピード感と拡散力で、社会に問題を知らしめたと思います。

◆大学生が経済的苦境を訴えた

 コロナ禍で顕著だったのは大学生の動きです。リモート授業になり、学費免除やアルバイトもできない経済的な苦境に支援を求める署名が大学単位で相次ぎました。身近な問題を訴える手段として署名をする、という行動が根付き始めました。
 当たり前と思っていた生活が崩れ、従来の制度や政治に「おかしい」「変えたい」と自ら動く人が増えたのではないでしょうか。サイトでは前年比2倍以上の2700を超えるキャンペーン(賛同数が5以上の署名運動)が展開されました。

◆出るくいは打たれる風潮に穴が

 政府の一斉休校要請直後や、緊急事態宣言中は、自分の自治体や学校宛てに「せめて卒業式はやってほしい」「オンライン学習の環境を整えて」など具体的な要望を上げる声が多くありました。「チェンジ」が昨年12月に発表した、コロナ禍の市民の行動変化をまとめた「新型コロナウイルスパンデミックレポート」では、オフィスがある世界19カ国で、日本が最も賛同数や利用者の増加などの変化が見られました。「『出るくいは打たれる』風潮に穴が空いたとも言える結果」とまとめています。
 他にもマスクの転売禁止を求める署名は短期間で数万の賛同が集まり、国が転売を規制。飲食店の倒産防止を訴える署名は、雇用調整助成金の拡充や家賃補償の給付につながりました。

◆声を上げることへの恐れを…

 民主主義は、人々が意思決定に参加できて成り立つものだと思います。選挙だけでなく、オンライン署名が定着し、意思決定者に署名を届けたりすることで社会や政治は変えていけるのだと実感しています。
 一方で、日本ではまだ声を上げることへの恐れが強い。批判的な意見を言うと異端視される傾向があり、「孤立するからやめておこう」と、恐れを内面化している人もいます。

◆特権性とマイノリティー性と

 私自身、結婚や出産を機に、96%は女性側が婚姻時に姓を変えているとか、働きたいのに子どもを保育所に入れられないなどの「社会の非対称性」に気付きました。おかしいことは言わないと現状維持になってしまう。オンライン署名を入り口に、自分の意見には価値がある、との思いを広げ、声を上げることの抵抗感を薄めていきたいですね。
 最近のネットバッシングを見ていると、「誰しも特権性とマイノリティー性を持ち合わせている」と自覚しなければ、と自戒を込めて思います。ある場面では弱い立場でも、相手が変われば権力的かもしれない。その認識と自分への自信があれば、他人を認め、尊重できるはず。相手の意見に賛成はできなくても、聞く姿勢を持てるのではないでしょうか。対話が開かれていることが、民主主義の一歩だと考えます。

 たけむら・わかば 1983年、東京都出身。慶応大環境情報学部卒業後、パリ大学大学院でMBA取得。2013年、日本版の運営に参画し、19年から日本版代表。サイトは米国の社会起業家ベン・ラトレイ氏が創設し、日本版は12年に開設。全世界の利用者は約4.2億人。

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