東京五輪「いつでも諦められる、最後まで最善を」 山下泰裕JOC会長インタビュー

2021年1月4日 06時00分
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、1年延期された東京五輪は4日で開幕まで200日。日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長にスポーツの力と五輪の意義について聞いた。(森合正範)

◆「相手に勝つのでなく人生に勝つ」

 ―「スポーツの力」を感じた経験は。
 「小学1年の時に1964年の東京五輪があった。重量挙げの三宅(義信)さん、男子体操、女子バレーボールなど、熊本の田舎町で育った小さな私に大きなインパクトを与えた。それがスポーツの力を感じた最初かもしれない。
 あとは、私はいじめっ子で問題児で、体が大きくエネルギーがあり余っていた。親が柔道をやらせれば、人に迷惑をかけないんじゃないかと。
 中学の指導者が素晴らしく『柔道は勝ち負けじゃない。人間のあり方や礼は道場だけでなく、家や教室でも同じ』と心構えの話を繰り返した。道場と日常生活はつながっている。それで私は変わった」
 ―勝ち負けじゃないと。
 「勝敗以上にフェアプレー精神、相手への敬意、失敗から立ち上がる姿。それらを日常生活に生かせたら、ものすごいスポーツの力になる。『勝つ』ということは相手に勝つことではなく、人生に勝つことだと思っている」

◆「観客はいないかもしれない」

 ―世論調査で東京五輪開催に否定的な意見が多い。
 「今の状況で不安を持たれるのは当然。ロンドンやリオデジャネイロと同じ五輪はできない。形は変わる。観客はいないかもしれない。選手と市民の交流もないかもしれない。あらゆる想定をして柔軟に対応していき、安心安全に世界中のアスリートが東京に集えるよう最大の努力をする。それこそが大きな希望、光になるのではないか。
 あと、私はスポーツマンの前に一国民だ。国益は大事。国益とは政治家ではなく、国民の利益のことだ。5年、10年後の視点で考えた時、日本にプラスになり、世界に勇気を与えられる。人生は何でもそう。いつでも諦められる。だが、最後まで最善を尽くせば可能になることもある」

◆「日本は『勝った負けた』ばかり」

 ―スポーツの力は五輪でしか示せないのか。
 「まず『五輪で』とか『大会で』と考えるのがおかしい。勝ち負けは二の次だ。日本は小中学校から『勝った負けた』ばかり。なぜ、親が子どもにスポーツをやらせるのか。心身を健康に、礼節や友だちづくり。それがやり始めると、大半の親が結果を求める。
 私は五輪に価値を置く人間だが、五輪や大会だけがスポーツの価値ではない。柔道創始者の嘉納治五郎師範が目指したのは人づくりであり、人間教育。原点に戻るべきだ」

◆五輪で人と人がつながる社会に

 ―スポーツは社会にどう貢献し、還元できるのか。
 「東京2020を機にスポーツと日常生活をつなげていく。そうすれば少々の失敗で心が折れない。相手の立場になって考え、人と人がつながる社会になるのではないか。
 平昌冬季五輪でフィギュアスケートの羽生結弦選手の逆境からのひたむきな姿。スピードスケートの小平奈緒選手と韓国の李相花さんの相互理解。たとえチャンピオンスポーツであっても、日常生活や社会につながるようにする。それこそが私の務めだと思っている」

関連キーワード

PR情報

スポーツの新着

記事一覧