SDGs 未来への懸け橋

2021年1月4日 07時28分
 貧困や飢えから解放され、健康に暮らす。教育がいきわたり、誰もが平等な社会。気候変動を抑え、海や陸の豊かさを守る。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)は、そんな未来を描いている。達成年次の二〇三〇年、世界はどう変わっているだろう。

<SDGs> Sustainable Development Goalsの頭文字を取った略称。読みは「エス・ディー・ジーズ」。2015年9月の国連サミットで採択された。人権問題、環境問題など広範な分野で17の目標(ゴール)を設定。それぞれの目標について、さらに具体的な169のターゲットが設けられている。達成年次は2030年。持続可能で、よりよい世界をつくるため「誰一人取り残さない」と宣言している。

◆力合わせ社会を転換 立教大特任教授・河口真理子さん

 SDGsの目的は、社会を大転換させることです。なぜ、それが必要なのか。今までの社会や経済の在り方が、地球環境や社会を毀損(きそん)し、このまま続けると破滅するからです。大きく方向を転換する。その方向を示す目印が十七の目標です。
 従来は、地球環境保全、先進国による途上国の開発支援、経済の三つが、ばらばらに扱われてきました。三者を融合し、集大成として生まれたのがSDGsです。自治体、学校、企業、消費者など誰でも参加できるのが特長と言えます。
 コロナ禍でテレワークが広がり、自分の暮らしを見直す機会にもなりました。本当に大事なものは何だろう。そう考えるとき、SDGsは心に刺さると思います。コロナに感染して周りの人に迷惑を掛けたくないと考えた人もいるでしょう。視野を広げれば、自分の消費行動が外国の人に迷惑を掛けていないかという発想になります。
 かつてグローバル企業は、環境を破壊し、人権侵害などの社会的課題をもたらした側面もありました。最近ではそれら社会的課題の解決につながるエシカル製品を望む消費者も増えました。エシカルとは倫理的という意味で、エシカル製品とはエコ、有機栽培、途上国の人権に配慮したモノを指します。企業は消費者のエシカルなニーズに応える必要があります。
 日本の企業は、一九九〇年代の終わりから環境に配慮した経営を始めました。省エネ・省資源は環境負荷を減らすと同時に、収益面でもプラスになっています。SDGsは、環境問題に加え、社会的課題の解決にも役立つ経営を求めています。慈善活動ではなく、本業の中に取り込むことが重要です。
 私が在籍する不二製油グループでは、東南アジアから食用油脂の原料を輸入していますが、森林破壊や人権侵害がないかモニタリングしています。問題があれば改善を要望し、改善しなければ取引を停止します。
 消費者として、一番簡単なのは食品ロスをなくすことです。水も大切に使う。そして、モノを買うときはエシカル製品を選ぶ。五回に一回、生産地や企業を応援する気持ちを込めてエシカル製品を買うだけで、世の中はずいぶん変わるでしょう。
 SDGsの十七番目の目標は「パートナーシップ」です。力を合わせれば達成できると思います。 (聞き手・越智俊至)

<かわぐち・まりこ> 大阪府生まれ。大和総研研究主幹を経て2020年4月から現職。同時に不二製油グループ本社CEO補佐に就任。著書に『SDGsで「変わる経済」と「新たな暮らし」』など。

◆2050年にCO2ゼロへ JERA社長・小野田聡さん

 電力会社は、「すべての人々が手頃な価格で信頼性の高い持続可能で現代的なエネルギーを利用できるようにする」という七番目の目標に深く関わっています。安全安価な電気を届けるという従来の事業に加えて、温暖化対策もしっかりやっていかなければいけない。ただし「化石燃料をやめて速やかに再生可能エネルギーに変えるべきだ」という欧米型の思想ではなく、独自の温暖化対策を進める必要があると考えています。
 大陸棚が広くて強い偏西風が吹く、風力発電にふさわしい条件が備わった欧州に対してアジアは、台風も来るし、雨も多い。電力の送電線も、網の目のように広がる欧州ほど整備されていません。一方で、アジアには欧州よりはるかに経済成長が著しい国や地域がある。こうした現状では、再生可能エネルギーで安定供給のすべてを賄うことは難しく、化石燃料を活用する必要があります。送電網が整備されていない国では、太陽光発電機器を設置して、直接スマートフォンやパソコンを使ってもらうような発想も必要でしょう。その国、地域の実情に即して、安価で安定した電気を供給することが求められています。
 昨年十月に発表した「JERAゼロエミッション」で、二〇五〇年に国内外の当社事業で、排出される二酸化炭素(CO2)を実質ゼロにする目標を掲げ、達成までのロードマップを示しました。再生可能エネルギーの導入を自然条件に左右されない安定的な火力発電で支える一方で、火力発電ではアンモニアや水素といったCO2を排出しないグリーン燃料と化石燃料を混焼させる実証試験を進め、将来的にはグリーン燃料の専焼化を目指します。
 再生可能エネルギー開発は、洋上風力が中心です。アジアにおける洋上風力発電の先進地である台湾での事業に開発初期段階から参画しています。台湾と日本では気候風土が似ており、ここで得たノウハウは日本でも活用できると期待しています。
 こうした取り組みには技術的なハードル、発電コストなどの懸案事項があるのですが、われわれには東電、中電が長年培ってきた技術と知見があります。両社から人が集まったことで、それぞれがやりつくしたと思っていたことにも新しい気づきがありました。シナジー(相乗)効果でさらなる高みを目指します。 (聞き手・中山敬三)

<おのだ・さとし> 1955年、愛知県生まれ。中部電力副社長執行役員などを経て、2019年4月、同社と東京電力ホールディングスが共同出資する国内発電最大手JERAの社長に就任。

◆ゴールの先が重要に 東京大助教・工藤尚悟さん

 SDGsは、チェックリストのようにして十七のゴールと百六十九のターゲットの達成を目指すだけでは不十分です。何よりも、「サステナブルな社会とは何か」を考えるきっかけにすべきだと思います。
 なぜなら、十七で全部の課題を網羅することは無理だから。世界はそれほど単純ではない。例えば、日本で重要な課題である高齢化はゴールに入っていません。ではゴールを増やせばいいのでしょうか。すると今度は何でも入ってきて絞りきれなくなる。十七のゴールは世界が合意したものとして行動し、一方で十八個目に何を用意するかを考えることが大事なのです。
 実は、SDGsにはサステナビリティーの本質に関する考察が抜けています。サステナビリティーの語源は「下から支える」を意味するラテン語。両手を広げて下から支えるイメージです。次世代に残したい価値観を守り、あるいは新しい価値観をつくり、未来につなげること。
 問題は、広げた手に何を乗せるか。SDGsはそれを先回りして決めた。ここに生きる「私たち」にとって手触り感がなく、遠く感じられる。本来はそれぞれの国や地域が個別の文脈で、それぞれの世代が十年、百年の時間軸の中で、議論すべきであり、それこそがサステナビリティーを考えることなのです。
 このとき重要なのは、「課題解決」という方法論を万能と思わないことです。この方法の問題点は、課題がないと考えが始まらないこと。しかも、解決というゴールを設定し、そこから後ろに振り返って現在すべきことを考えるバックキャスティングと呼ばれる方法のように、プロセスを直線的に考えがち。SDGsもまさにこれでしょう。
 でも、課題設定の前提は妥当なのか。プロセスの途中の不確実な要素を無視していないか。つまり、私たちの課題は本当に課題と言えるのか。課題を課題とみる自分や社会について理解を深め、その思考の枠組みに自覚的になることが必要です。
 そうすれば、課題の背景にある人々の価値観や、自分や社会というシステムの余白にある「遊び」という創造性が見えてきます。課題を起点とする思考はもちろん必要ですが、価値観や創造性を起点とする思考も別にあれば、より主体的に、新しいサステナブルな社会のあり方を見いだせるのではないでしょうか。 (聞き手・大森雅弥)

<くどう・しょうご> 1984年、秋田県生まれ。東京大大学院博士課程修了。博士(サステイナビリティ学)。2016年から現職。研究テーマは「縮小高齢社会における持続可能な地域づくり」。


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