DVに悩むロシアの女性、男性優越の壁壊せるか

2021年1月5日 06時00分

モスクワで2019年11月、「いつか自由になる」と書かれたプラカードを持ち、DV対策法の整備を求めてデモを行う女性たち=モスクワ通信社提供

 ロシア中部クラスノヤルスクに住む主婦のナタリア(37)=仮名=は昨夏、「散歩に行く」と言ったきり、夫(39)の元には帰らなかった。子どもの手を引き、市内の家庭内暴力(DV)の保護センターに駆け込んだのだ。

◆2年以上前から続いた夫の暴力、コロナで拍車

 2年以上前から続いた夫の暴力は、新型コロナウイルスの流行とともに堪え難くなった。都市封鎖のため職場から3カ月の「休暇」を言い渡された夫は、収入減の不安と外出制限のストレスで、ナタリアに手を上げる回数が増えたからだ。
 「コロナの第2波が来て再び都市封鎖になったら耐えられない」。夫からの着信をブロックして暮らすナタリア。国連のグテレス事務総長は昨年4月、「コロナ禍の世界でDVが激発している」と警告を発した。
 ロシア政府などによると、DV被害に遭う女性は年間1600万人。ロシアの人口は約1億4500万のため、女性の5人に1人は暴力を受けている計算だ。死者は年間1万2000~1万4000人と推定される。昨春の都市封鎖で、DVの通報数は前年と比べて25%も増えた。だがこれらの数値すら「氷山の一角」と見られている。

◆「家族の問題」と周囲も止められず

 ロシアでDV被害が絶えないのは「(男が女を)殴るのは愛の証し」ということわざがあるように、男性優越の考えが背景にある。妻はぶたれても「愛ゆえの行為」と自分に言い聞かせ、周囲も「家族の中の問題だから」と、暴力を止められないという。
 こうした風潮に加え、プーチン政権が保守色を強めていることも問題視されている。2017年にはDVに対する罰則が軽減され、家族への暴力について、初犯で大けがを負わせていなければ、最大でも3万ルーブル(約4万3000円)の罰金刑で済むようになった。
 「一家のあるじが刑務所に入れば、家族の収入が減る」という考えからだが、モスクワの民間DV被害防止センター代表、アンナ・リビナ(31)は「妻子に暴力を振るってカネさえ払えば許されるのはおかしい。DVが減らない責任の一端は政府にある」と憤る。

◆コロナ禍で深刻化、迫られる法整備

 長年、DV問題に取り組む下院・家族問題副委員長のオクサナ・プーシキナ(57)は「コロナ禍は、DVを深刻化させる」と断言。DV対策の法整備を急ぐ必要があると訴える。

モスクワで2019年11月、「殴ることは殴ること(以外の何事も意味しない)」と書かれた紙を持つ女性権利保護のデモ参加者=モスクワ通信社提供

 現在、プーシキナらが提出を目指す法案では、DVを「社会で解決すべき問題」と捉え、行政と保護センター、医療機関が連携することをうたう。加害者である男性が、被害者である妻子や交際していた女性に接触することも禁じる。
 多くの先進国では既に導入されている取り組みだが、ロシアではこれでも過度に「前衛的」な内容と見なされている。議会は現在、有識者のヒアリングを進めているが、法案を提出しても可決されるか予断を許さない。

◆「女性が恥じる文化を変えなければ」

 「ぶたれた女性が、恥じるような文化をまず変えなければ」。アンナは意識改革が必要との思いから、テレビ局と連携して啓発動画や、Tシャツなどのグッズをつくっている。グッズに刻まれた標語は「暴力を振るうのではなく、愛し合おう」だ。(敬称略、モスクワ・小柳悠志)

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