緊急事態再宣言へ 心に響く誠実な言葉で

2021年1月5日 07時20分
 菅義偉首相はきのう年頭の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、緊急事態宣言を再発令する検討に入ったことを明らかにしました。二〇二一年、緊張の中での仕事始めです。
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 例年ですと一月四日には、首相は閣僚を引き連れて三重県の伊勢神宮参拝に出掛けます。
 しかし、観光支援事業「GoToトラベル」を停止し、外出自粛を呼び掛ける中、大挙して出掛けるわけにいかないのでしょう。
 首相は参拝を見送り、年頭会見も伊勢神宮ではなく、東京都内の首相官邸で行いました。

◆政府の判断に後手の印象

 「東京都と首都三県では三が日も感染者数は減少せず、極めて高い水準だ。一都三県で(感染者数が)全国の半分という状況を深刻に捉え、より強いメッセージが必要だと考えた」
 首相は会見で、特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を検討する理由をこう説明しました。
 首相は十二月三十一日には記者団に「まず今の医療体制をしっかり確保して、感染拡大回避に全力を挙げることが大事だ」と発令に慎重姿勢を示したばかりです。
 一転して発令の検討に入ったのは、東京都の新規感染者数が三十一日に過去最多の千三百三十七人を記録して、小池百合子東京都知事、黒岩祐治神奈川県知事、大野元裕埼玉県知事、森田健作千葉県知事が年明け二日にそろって、西村康稔経済再生担当相に緊急事態宣言の発令を要請したからでしょう。
 私権の一部制限が可能になる緊急事態宣言の発令には慎重であるべきですが、菅内閣の判断には後手に回ったり、受け身だったりの印象があります。
 のちに謝罪したものの多人数の会食を続けたり、GoToキャンペーンの一時停止に慎重だったりと首相がどこまで危機感を持っていたのか、強い疑問も残ります。

◆強いメッセージでなく

 現行の特措法では、宣言に基づいて施設利用の制限や医薬品、食料などの収用、医療施設開設のための建物や土地の強制使用ができる権限が知事に与えられます。
 ただ、現行の枠組みでは、感染源の大部分を占めるとされる飲食関係の感染リスクを低減することは難しいとの指摘があります。
 首相が、飲食店などに休業を強制するため「給付金と罰則をセットにし、より実効的な対策をとるために特措法(の改正案)を通常国会に提出する」方針を表明したのもこうした認識からでしょう。
 経済活動の自由が認められている民主主義社会において、罰則を伴って休業を強いられるのは、かなり強権的な措置です。命を守るために必要だとしても、議論には慎重を期さねばなりません。
 問題は、なぜそのような措置を検討せざるを得ない深刻な事態を招いたか、ということです。
 首相が感染拡大に手をこまねいてきたとまでは言いません。それなりに危機感も表明しています。しかし、国民の心には響いてこないのです。
 首相は「強いメッセージ」が必要と言いますが、国民の共感と協力を得るために必要なのは「強いメッセージ」ではなく「誠実なメッセージ」ではないでしょうか。
 いくら間違いを避けるためでも自分の心からの言葉でなく、手元の紙に目を落として読み上げるのでは心に響くわけがありません。
 日本学術会議会員候補のうち六人の任命を拒んだ問題とも通底します。「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を確保する観点から判断した」と述べるだけで国民の理解が得られると考えるなら、国民を愚弄(ぐろう)しているとしか思えません。
 加えて国会で誠実に答弁せず、国会をなかなか開かなかったり、延長せず閉じたりと、国民を代表する国会を軽視する姿勢が対応を遅らせてもいます。
 罰則付きの特措法改正には賛否がありますが、国会をもっと早く開けば、より迅速に対応できるはずです。法案の成否は別にして議論を通じて問題点が可視化されれば、国民の意識も高まるのではないか。首相は、その機会をも失しています。

◆民主主義再生のために

 国会議員から首相を指名する議院内閣制の日本では、主権者たる私たち国民も、こうした首相を選んだ責任から逃れられません。
 今年は十月に任期満了となる衆院議員の総選挙が行われます。東京では都議選が、党員に限りますが自民党総裁選もあります。
 選挙は民意を表明する最大の機会です。逃す手はありません。
 私たち国民に誠実な言葉で語りかけ、政策の実現に努める政治家を選びたい。それが傷ついた民主主義を再生し、私たちの暮らしもよくするはずです。コロナ禍の真っただ中で始まった二〇二一年、有権者の選択も問われます。

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