<若者たちのSDGs>自然と共に生きる社会を未来ある子どもたちへ

2021年1月5日 16時19分

自然と共存できる社会を目指して活動を続ける学生団体「農かがく」。若者たちから子どもたちへどんなバトンを手渡そうとしているのか、お聞きしました。

◆自然のふしぎ、農家の知恵を体感!

農×科学=農かがく。2008年より「自然と共存してきた農家を見直せば、環境と共存できる科学が生まれるはず!」をコンセプトに、さいたま市の農園「ファーム・インさぎ山」を会場に、大学生を中心としたメンバーが講師となって、親子で楽しめる科学実験教室を定期的に開催している。
※現在は新型コロナウイルスの影響で休止中

◆農や自然を大切にする心を育みたい

 現在、農かがくのメンバーは、27名。東京電機大学と同大学大学院の学生、OB・OGが参加して、コロナ禍前まで、2カ月に1回のペースで教室を開催してきた。メンバーの石田やや香さん、山下貴之さんにこれまでの実験内容を聞くと「ミカンに含まれる物質“リモネン”で風船を割る実験や、静電気をテーマにした実験などをやってきた」「カイロはなぜ温かくなるの?という実験をやった。実は僕自身がその仕組みを知らなくて(笑)、一から勉強して準備した」。

メンバーが考案した実験を楽しむ子どもたち。実験が進むにつれ、質問したり、思いついたアイデアを発言する子どもも

 「自然現象などの“これ何だろう?”に目を向け実験を作り、子どもたちに伝わるようなアプローチ法を考える」と農かがくのメソッドを話してくれたのは、OBの泉山遼海さん。参加した子どもたちの反応は「化学反応で水の色がぱっと変わった瞬間、わっと歓声を上げてくれる」「純粋に実験を楽しんでくれる。その姿を見ると、大学で専門的な勉強をする中で忘れかけていた“科学は楽しい!”という気持ちを思い出す」。子どもたちの話になると、メンバー皆、笑顔があふれる。
 今年で設立13年、活動を継続できた理由を聞くと「実験教室を通じて、農や自然を大切にする心を育みたい。その大きなテーマが柱にあるから、共感して参加してくれる学生たちがいる」。萩原さんと吉武さんの想いが、学生たちに受け継がれている証でもあるだろう。また、OB・OGを含めた見守る社会人が、学生が活動しやすい環境を作ってきたことも大きな要因である。

◆科学を正しい方向へ導くことができるように

 農かがくが目指す先は、SDGsの目標とも重なる。「私たちも持続可能な社会づくりを目指してきたといえる。SDGsを学ぶと、これまでの活動は間違っていなかったと思う」。農かがくの活動は、SDGs目標11『住み続けられるまちづくりを』、目標15『陸の豊かさも守ろう』などにつながるアクション。そしてもう一つ、目標12『つくる責任 つかう責任』も深く関係している。「科学技術の発展が、自然を破壊するものではあってはならない。科学を正しい方向に導けるような人間の育成の場にもなれば」と泉山さん。
 この日、ファーム・インさぎ山に集合したメンバーは、農かがくのオンライン実験のテストを行った。コロナ禍により約1年休止していた活動をオンラインで再開しようという試みだ。パソコン画面の向こうから参加するのは、歴代のOB・OGたち。慣れない実験に苦戦するメンバーに、子どもの目線に立って、具体的なアドバイスと熱いエールを送ってくれた。
 「活動はやめてはいけない。一度中断すると、子どもの興味が薄れてしまう」と石田さん。「メンバーを増やしてもっと盛り上げたい」と山下さんも意欲を見せる。「オンライン実験が可能になれば、世界中の子どもたちにアプローチできる!」。ピンチをチャンスに変えて、農かがくは発信し続ける。

オンライン実験を行った農かがくのメンバー

◆「農の力」で持続可能な社会づくりを

「農かがく」の生みの親 ファーム・インさぎ山 代表・萩原さとみさん

 農かがくの会場である「ファーム・インさぎ山」は、埼玉県の大型緑地「見沼たんぼ」に隣接。今なお昔ながらの循環型農法で営んでいる。見沼たんぼは、江戸時代に農業用の溜池として整備、その後、農地化されて、現在まで豊かな自然が守られている。保全される理由の一つは「この地域には高い治水機能があるから。東京を洪水から守る役割もあるのよ」。そう語るのは、ファーム・インさぎ山代表の萩原さとみさん。この地で農業を営みながら、20年以上も農村生活体験プログラムを実施してきた。そして「農かがく」発案者でもある。
 「自然と共存する農あるくらしを伝えたい。そのために、農と密接な関係がある科学をもっと知りたくて、農家で科学実験教室を開いてほしいと東京電機大学助教(当時)の吉武先生に頼んだの」。例えば、かまどでご飯を炊くときに藁をくべるとよく火が回るのは、藁の空洞から空気が入り、火力が強くなるから。農家の知恵は、科学と深く結びついている。「“藁はお米の親”としか教えていなかったのが、科学的に説明できるようになった」。

萩原哲哉さん

 萩原さんが「農の力」を発信し続けるのは、「社会問題を包み込む力もあるから」だという。「農あるくらしが、食の安心・安全、教育、環境、福祉、予防医学、居場所づくりなどの役割も担えることに気がついた」。同じ理念を持って活動する息子の哲哉さんは「学校に馴染めない若者が、畑仕事で汗かいて、いきいきとした目で帰っていく姿をみると、農の力を感じる」。「農あるくらしは、持続可能な社会づくりに貢献できる」と二人は声を揃える。
 この地域は、かつて「野田のさぎ山」と呼ばれ、国の特別天然記念物であったシラサギの営巣地だった。しかし、1972年にサギは営巣しなくなったといわれる。「人間が自然を壊したことが原因だね。一度壊れた自然を再生させるのは難しい。だから、自然と共存する持続可能なくらしとは何か、みんなに考えてもらうためにも活動は続けていく」。この想いが「農かがく」を生み育んだ。

◆自然を見つめることで、科学は生まれる

元東京電機大学助教/現東京都立大学特任助教・吉武裕美子さん

 萩原さんとともに、東京電機大学などの学生を集めて「農かがく」を始めたのが、現在東京都立大学特任助教の吉武裕美子さんだ。「当時、学生たちが科学を面白いと思っているのか不安だった」という吉武さんが、萩原さんと出会い、確信したという。「科学は自然を観察することで生まれた学問。実験室の中にいるだけでは、科学の面白さは分からない」。実際に青空実験教室をやってみると「子どもたちの目は輝き、教える側の学生も楽しそうだった」。
 実験を通じて伝えたいことは「例えば、学生たちは“てこの原理”は頭では分かっていても、実際に農家で農具を使って体験して、多くの気づきを得たと思う。農家の皆さんは昔から、自然の力を上手に利用して暮らしてきた。この機に、農や自然に関心と敬意を持ってもらえると嬉しい」。
 そして「学生たちのプレゼンテーションも上手になった!」と笑顔を見せる。「科学者には、自分の科学をどう生かしたいのか説明責任がある。そういった意味でも、プレゼン力をさらに磨いてもらえれば」。厳しくも温かい目で見守り続ける。
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企画・制作/東京新聞広告局

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