40歳、脂のってます 飛び込み・寺内健<スポーツの力 信じて前へ アスリートの思い>

2021年1月8日 05時50分

感染から復帰し、東京アクアティクスセンターの完成披露式典で演技を披露する寺内健(手前)=東京都江東区で

 東京五輪代表で飛び込みの第一人者、寺内健(ミキハウス)は昨夏に新型コロナウイルスに感染した。東京五輪の延期、感染症との闘い、回復への道のりを通じ、スポーツの可能性やアスリートとしての役割を自問自答してきた。(磯部旭弘)

◆自問した「なぜ五輪を目指すのか」

 〈2020年8月に40歳になった。経験豊富な寺内が、スポーツの力を感じる瞬間とは何か〉
 今のチームメートには10代の選手もいます。自分の3分の1ほどの年齢の子と同じ目標を持つことは、実社会ではあまりないですよね。同じ喜びを味わい、苦しみを乗り越えたときに見える新しい景色を共有できる。スポーツが唯一かなえられるものだと思うんです。
 もう一つはチャレンジすること。この年齢で現役生活をするとは、昔は思っていなかった。「飛び込みで脂ののった年齢は何歳ですか?」と言われても、人それぞれという感じで。今、僕は40代だけれども、脂がのっていると思うから続けられます。いつがピークかなんて、引退するまで分からない。
 〈2019年夏の世界選手権で東京五輪の代表内定1号になった。ただ、新型コロナの感染拡大により20年3月に五輪の延期が決まった。自分なりに五輪の意義を見つめ直した〉
 自分はなぜ五輪を目指してきたのかを考えさせられた。目標であることは確かだけど、そもそも五輪の意図は世界平和。自分たちがパフォーマンスで世界平和を実現させるという考えがだんだんと抜け落ちていたことに気付いた。根底にあるものをおろそかにしたまま、強くなって上位を目指す五輪が本当に良いものなのか。置かれている立場を確認して競技に臨むことが大切だと行き着いてからは、スポーツ選手として社会に貢献できることがもっとあるのではないかと感じました。

アスリートの役割について語る寺内健=東京都千代田区で

◆グレープゼリーの味がしない

 〈アスリートも社会を構成する一員。だからこそ、コロナ禍におけるスポーツ界の状況に複雑な胸中だった〉
 コロナにかかるか、かからないかもそうだし、生活様式が変わってしまったことを目の当たりにしていた。生活ができる大前提の上でアマチュアのスポーツ選手を続けていくことは、自己満足の延長でしかない。社会に迷惑をかけることがどうなのか、でも、スポーツには違う力があるはずだとか、常に葛藤がありました。
 〈胸中が揺れる中、新型コロナへの感染が発覚した。20年7月下旬。発熱や倦怠(けんたい)感など異変を感じ、PCR検査の結果、8月上旬に陽性であることが分かった。東京五輪内定選手での感染は初めてだった〉
 熱が出て、「新型コロナかもしれない」と思った時に、にんにくチューブのにおいをかいだけど、においがあまりなかった。グレープ味のゼリーも食感しかなかった。最小限でしか練習したり外に出たりしなかったのに陽性になった。検査を受ける前から、これ以上(感染を)広げてはいけないという感覚で、誰に会ったのかを思い出して連絡した。絶望感よりも、申し訳ない気持ちだった。
 〈5日間ほどの入院の後に退院。病室ではチームメートらとビデオ会議システム「Zoom」で交流できたことにも励まされた〉
 回復していく実感はありましたが、病室で安静にしておこうと心掛けていました。僕はトレーニングをしませんけど、Zoomを使って後輩に指示をしたりしていました。「五輪に過去に何回か出たことがある先輩」という中の責任感もそこにありました。後輩からしたら、「どんなところから指示してんねん」って感じですよね。でも、指導してくれているコーチとしては「誰も欠落させない」がキーワードでして。チームとして競技ができていることに支えられました。
 〈スポーツを通じ、世代を超えたつながりをかみしめる。さらに、国境を越えたつながりも改めて感じることができたという〉
 海外の報道では死者数や感染者数がかなり多かった。それもあり、海外の選手から「頑張れよ」「死ぬなよ」のようなメッセージをもらった。現役生活の中で築いてきた世界との交流が形になっているのかな。戦うときはライバルだけど、目指すものが同じという意味では同志。政治ではできないような交流が、スポーツではできる。
 2016年リオデジャネイロ五輪のときは36歳。海外のトップ選手から「次(の五輪会場)はあなたの国よ、続けるべき。日本で素晴らしい大会にしましょう」と言われた。これもスポーツの良さだと感じました。

40歳になった今も現役選手として努力を続ける寺内健=東京都千代田区で

てらうち・けん 2001年世界選手権の3メートル板飛び込み銅メダル。五輪は1996年アトランタから2008年北京まで4大会連続出場し、2000年シドニーの高飛び込み5位が最高。09年に一度引退した後、11年に現役復帰。16年リオデジャネイロ五輪にも出場したが予選敗退。兵庫県出身。40歳。

◆昨年10月からプールでの練習に復帰

 寺内は昨年8月の退院後に徐々に活動を再開した。当初は軽いランニングやウエートトレーニングで1日1時間半ほど体を動かした。慎重に段階を経て、10月からプールでの練習に復帰した。
 コロナ禍により昨春以降は自宅でのトレーニングが多かった。ジャンプ系のメニューを控えていたことから、下半身の筋力を考えるとマイナス面があった。その一方、全体的な練習量が落ち、懸念だった肩の痛みは引いたことで「下半身と上半身の連動するスピードは多少上がった感覚はある」と話す。
 2020年は新型コロナへの感染などにより実戦機会がなかった。「試合に出てもちろん課題をあぶり出しますけど、何が良かった悪かったかは、やっぱり普段の練習でキャッチできるように心掛けている」。積み上げてきた豊富な経験も糧に状態を上げていく。

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