東日本大震災10年 丑年「魂の一曲」に心込め 福田こうへい、郷里の民謡「南部牛追唄」への思い

2021年1月8日 07時21分

「民謡は今も緊張します」と語る福田こうへい=東京都文京区で

 今年は丑(うし)年。人気歌手の福田こうへい(44)は、出身地の岩手に伝わる「南部牛追唄(なんぶうしおいうた)」には格別の思いがある。歌謡界デビュー前、民謡で旋風を巻き起こしてきた福田にとって「魂の一曲」であり、東日本大震災で苦しい日々を送る人々を励ました曲でもある。「3・11」から十年。「演歌より緊張するのが民謡」と姿勢を正し、「自分たちの代表」と応援してくれる郷里の人たちの思いも込め、大切に歌い継ぐ。 (藤浪繁雄)

♪ 南部牛追唄 岩手県民謡

 田舎なれども サーハーエー
 南部の国はサー
 西も東もサーハーエー
 金(かね)の山 コラサンサエー
 福田は盛岡の民謡一家に育ち、父の福田岩月(がんげつ)(故人)は実力派として知られたが、自身は父に反発するなど、民謡とは一線を画していた。呉服店の営業職として働いていた二十三歳の時、スイッチが入り、独学で挑み始めた。「オヤジをびっくりさせたい」。そんな一心だった。
 「南部−」は藩政時代、海産物や塩などの荷を積んだ牛と歩んだ道中、牛方が歌ったことがルーツとされる。この曲の全国大会が開催されるなど、岩手を代表する民謡だ。情趣あふれる曲だが、発声やこぶしの回し方など歌唱は難しい。岩月が大会で一位になれなかった曲でもある。

復興支援のチャリティーライブで、ファンから大歓声を浴びた福田こうへい=2016年11月、宮城県名取市で

 福田はさまざまな民謡歌手の歌を録音し、手本となる歌唱法を学んだ。「(歌手の)優れた部分を徹底的に染み込ませ、自分の歌い方を築いた」と振り返る。「南部−」は「遠くに見える山並みや牛との歩みなど、聴いてくれる人が情景を想起するように」と心掛け、伸びやかで重層的とも思える声で歌い上げる。
 歌唱力に磨きをかけ二〇〇二年、岩手県民謡「外山節(そとやまぶし)」の全国大会で優勝を果たした。その後も名だたる大会で日本一になり、〇六年に「南部−」でもチャンピオンとなった。前年に五十二歳で死去した父の悲願もかなえた。そんな多くの実績を引っ提げて一二年、「南部蝉(せみ)しぐれ」で演歌歌手デビュー。民謡時代に培った技術と精神も手伝ってヒットを連発。昨年は日本レコード大賞の最優秀歌唱賞にも輝いた。

昨年秋、岩手・大船渡産のサンマをアピール=東京都内で

 歌謡界入りする前に起きた大震災。福田は全国区の人気者になってからも、チャリティーライブを被災地で開いてきた。三味線や太鼓の囃子(はやし)方とともに、父の形見のワゴン車や小さいトラックで岩手県の久慈市、山田町、釜石市、陸前高田市などを訪ね、屋外で熱唱した。「おう、こうへい」と迎えてくれる人たちと心を通わせた。
 「皆さん、土地のいろいろな祭りを大切にしてきた。そこで民謡に触れて育ってきた人たちだから、耳が肥えている。“本物の歌”でないと拍手をもらえない」と話す。数々の民謡大会を制した経験があってなお「お客さんが最高の審査員ですね」と実感する。
 昨年は新型コロナウイルス禍を受け、全国各地で予定していた公演は四分の一ほどしか開催できなかった。被災地でも歌えなかった。節目の今年、感染が急拡大し、不安が募る幕開けとなったが「生の歌にこだわりたいし、できることは何でもやっていきたい」と復興支援、そして「南部牛追唄」への情熱は変わることはない。
<ふくだ・こうへい> 1976年9月21日、盛岡市出身。2012年、「日本民謡フェスティバル」でグランプリを獲得するなど数々の民謡大会で優勝の実績を上げ、同年演歌歌手デビュー。NHK紅白歌合戦には4回出場。「みちのく盛岡ふるさと大使」などを務める。
 昨秋はアルバム「母〜日本の母を唄う〜」、今年元日には新曲「かんべんナ」を出した。2月12日に東京・かつしかシンフォニーヒルズ、3月10日に群馬・高崎芸術劇場大劇場、同22日に埼玉・サンシティ越谷市民ホールでコンサートを開催予定。

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