議決日ドキュメント 横浜市議会本会議、IR住民投票条例案を否決 市民「法・理にかなってない」

2021年1月9日 07時08分
 横浜市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致の賛否を問う住民投票は八日の市議会本会議で条例案が否決され、結実には至らなかった。「住民の声を聞いて」「勝手に決めないで」と市民が十九万人超の署名を集めた直接請求運動が区切りを迎えた一日を追った。 (丸山耀平、杉戸祐子、石原真樹)

■正午

採決を前に住民投票の実施を求める市民ら=横浜市中区で

 「最後まで『市民の声を聞け』と声をあげよう」。条例制定を直接請求した市民団体「カジノの是非を決める横浜市民の会」が市役所前で事前集会。「戦う者の歌が聞こえるか」と、フランス革命を背景にしたミュージカル「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」を歌う市民も。運営委員の後藤仁敏さん(74)は「市議一人一人が自分を支えてくれている市民の思いを考えて採決に臨んでほしい」。

■午後2時

本会議採決時、大型モニターには条例案を否決した委員会に賛成し、住民投票に反対する票が51と過半数を占めた=いずれも横浜市議会で

 本会議開会。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、議場に座る議員を半数に抑え、残りの議員は別室から参加。途中で入れ替わった。討論で自民と公明が住民投票に反対、立憲と共産と、無所属の三人が賛成の立場から意見を述べた。
 傍聴席には百三人の市民が詰めかけた。住民投票に否定的な討論が展開されると「ふざけるな」「市民を無視するな」などと批判の声が飛び、通路に並んだ警備員らが制止。別室では満席で入場できなかった約百人がモニターで見守った。

■午後4時2分

採決を見守る林市長

 全議員が議場に集まり、横山正人議長が「これより採決に入ります」と告げると、傍聴者から「強行採決反対」「議論になってない」などの怒号が相次いだ。議事を妨害したとして、計六人が退場を命じられた。
 押しボタンによる採決では、議員定数の過半数を占める自民、公明の議員が住民投票への反対票を投じ、条例案は否決された。林文子市長は前を見つめ、表情を変えることはなかった。

■午後4時15分

 傍聴席から出てきた港北区の主婦高橋由紀さん(54)は開口一番「ひどすぎる」。自民の討論について「自分たちに賛成しない人は敵だと言ってるようだった。法定数の三倍を超える署名を集めたのに」と憤った。同区の音楽家塚田聡志さん(62)は、市議会の会派構成から住民投票の実現は難しいと考えて市長のリコール(解職請求)を求める署名運動にも力を入れたといい、「大変残念。何とかしないと」と危機感を示した。

■午後4時25分

 採決を受け、市民の会のメンバーが記者会見。岡田尚運営委員長は「法にも理にも情にもかなっていない」と無念さをにじませた。藤田みちる共同代表は「選挙で市長、議員を選ぶ重みを感じた。市民の方を向いて暮らしを守ってくれる人、将来の横浜を考えて歩んでくれる人を選ばないと」と夏の市長選を見据えた。

■午後4時50分

 林市長が取材に対し、「ここをIRの議論の入り口として捉えたい。これからもっともっと議員の皆さんに議論していただこうと思う」と述べた。

◆丁寧に市民の声を

<元逗子市長の富野暉一郎・龍谷大名誉教授(地方自治論)> 地方自治は、身近な政治にするために市民と向き合う必要がある。住民投票をやらないとした判断は残念。条例案を否決して終わりではない。市長はIR誘致についてメリット、デメリットを具体的に説明し、議会の声だけでなく丁寧に市民の声を聞いていく努力を忘れてはいけない。

【市議会主要会派の討論】

<自民>反対
 軽々に市民に判断を委ねるような問題ではない。IR施設の詳細が示されないのに、なぜ住民投票を行うのか。反対運動をアピールし、市長選や総選挙につなげようと思い署名を展開したなら政治利用で、市民も議会も冒涜(ぼうとく)されたと言わざるを得ない。代表民主制が健全に機能している議会として、今後も議論を進める。議会がすべき議論を中途で放棄しての住民投票には断固反対。
<立憲>賛成
 どんな政治課題も無条件に議会や市長だけで決めて良いわけではない。重大な問題であればあるほど市民、有権者に信を問い、民意を酌み、その上で判断すべきだ。そうでなければ代表民主政治は成り立たない。IR誘致の是非は民意を問うべき問題だ。市長が前向きでないなら、議会が条例案を成立させ、民意を問う住民投票を実施することこそが市民への責任を果たすことだ。
<公明>反対
 現在の地方自治制度は代表民主制で、議員が冷静に責任ある議論を通して結論を導き出す役割が求められている。IR事業は数ある政策の一つで、制度上に課題を抱える住民投票で市民に判断を委ねることではない。区域整備計画案が示されていない中、賛否を判断することは困難。今後提出される予定の区域整備計画案を、市民の代表として責任を持って審査し、判断する。
<共産>賛成
 住民投票は賛否両論が提示され、より説得的な意見に一票を投じる中立的な制度。IR誘致の論議を議会で粛々と進めるだけで市民理解が進むはずがない。住民投票で賛成側も反対側も、市長も議員も汗をかき、それぞれの立場で市民に向き合うことで周知が飛躍的に進むはず。今の仕組みは結果に拘束されない。再び二元代表制に委ねられる。正々堂々議論していきましょう。

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