みんなの民俗学 島村恭則著

2021年1月10日 07時00分

◆今の<俗>を自由に解明
[評]荻原魚雷(ライター)

 民俗学というと、地方の集落や離島を訪れ、失われつつある伝統や風習、古道具みたいなものを調べたり、記録したりする学問だとおもっていた。しかし本書を読んで印象が変わった。
 この本の副題は「ヴァナキュラーってなんだ?」。ちょっとなじみのない言葉かもしれないが、ヴァナキュラーは「<俗>を意味する英語」であり、当然、今の<俗>も研究の対象である。
 学校や学生寮の隠語や挨拶(あいさつ)、職種ごとの業界用語、それぞれの家庭内の不思議なルール、全国各地の独自の文化や都市伝説の類もヴァナキュラーの守備範囲だ。
 第四章では都市のヴァナキュラーの一例として「喫茶店モーニング習慣」を考察している。モーニングは喫茶店の開店後、午前中の一定時間にコーヒー一杯の値段でトーストやゆで卵などがつくサービスである(店によってサービス内容はちがう)。その起源は愛知県の一宮説とか豊橋説とか愛媛県の松山説とか諸説あるようだ。喫茶店での朝食文化が普及していった経緯だけでなく、香港、ベトナム、タイなど、アジアのモーニングにも言及している。
 第五章の「B級グルメはどこから来たか?」では亀山みそ焼きうどん(三重県)も取り上げられている。わたしの郷里は亀山市の隣の鈴鹿市−地元にいたころは聞いたことがなく、いつ流行したのかずっと疑問だった。謎が解け、すっきりした。
 それを知ったところで何の役に立つのかはわからない雑学っぽさもなきにしもあらずだが、何でもありの自由さが好奇心を刺激する。
 ほかにも新宗教やパワースポット、新型コロナで注目を集めたアマビエもヴァナキュラーの視点から世の中の変化や人々の暮らしの変遷を読み解き、現代の民間信仰の成立過程を解き明かしていく。
 「野の学問」と呼ばれる民俗学は、読み物としての魅力を兼ね備えた学術書も数多い。「おわりに」では柳田國男をはじめ、著者おすすめの民俗学の本も紹介している。
(平凡社新書・968円)
1967年生まれ。関西学院大大学院教授、世界民俗学研究センター長。

◆もう1冊

宮田登著『民俗学への招待』(ちくま新書)。日本人の文化の深層と謎に迫る。

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