安倍・菅政権vs.検察庁 暗闘のクロニクル 村山治著

2021年1月10日 07時00分

◆「桜」でも穏便処分期待か
[評]内田誠(ジャーナリスト)

 「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ付きのツイートが燎原(りょうげん)の火のごとく燃え広がり、政府の検察人事への不当な介入を断念させた事件といえば、思い出される方も多いだろう。本書は、四十七年に及ぶ取材歴の大半を、特捜検察が摘発する政界汚職や大型経済事件の報道に費やしてきたと自負するジャーナリストが、検事総長人事を巡る官邸と検察庁の抗争について書き下ろしたもの。膨大な取材メモをもとに、その発端から結末に至る経緯と背景が詳細に描き出されている。
 モリカケ問題や「桜を見る会」問題などで支持率低下に見舞われていた第四次安倍内閣は、次期検事総長を、政権に好都合な判断を繰り返してきたとされる黒川弘務氏とするよう、人事への露骨な介入に動く。定年間近だった黒川氏の「勤務延長」を閣議決定し、さらに検察庁法を改正して、内閣や法相が必要と認めた幹部検事の勤務を、最長三年間延長できる「特例規定」まで盛り込もうとした。
 官邸が黒川氏を検事総長の座に就けようとしたのは、「桜を見る会」前夜に安倍晋三氏の後援会が開いた夕食会で、安倍氏側が参加者の飲食代を補填(ほてん)したとされる公選法違反容疑などを巡り、黒川氏が検事総長なら処分を穏便に済ませてくれるだろうと期待した可能性があるとの著者の推断は、至極当然だろう。
 興味深いのは、黒川氏自身には検事総長になりたいとの野心はなく、官邸に担がれた黒川氏は、他の検察幹部らとともに「被害者」だったとの著者の見立てだ。これは森友事件で公文書改ざんを指示した佐川宣寿元国税庁長官らを不起訴にし、賭けマージャンの発覚で東京高検検事長を辞職するに至った黒川氏に対し、評者を含む一般が抱く印象とはかなり食い違っている。
 取材を通してとはいえ、著者と黒川氏は三十年に及ぶ付き合いだともいう。惻隠(そくいん)の情と言うべきか、本書は、有能な検察官の一人であった黒川氏の退場を惜しむ著者の心持ちが、そこかしこに顔を出す一冊でもある。
(文芸春秋・1760円)
1950年生まれ。フリージャーナリスト。著書『検察 破綻した捜査モデル』など。

◆もう1冊

塩野谷晶著『実録 政治vs.特捜検察 ある女性秘書の告白』(文春新書)

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