福島・双葉町の被災犬ローズ 生き抜いた! 富山で世話した男性が見知らぬ元飼い主へメッセージ

2021年1月9日 14時03分
 東京電力福島第一原発から4キロのJR双葉駅(福島県双葉町)、待合所に置かれたノートに犬の写真が挟まれている。原発事故直後に駅近くで保護された飼い犬で、遠く富山県で一生を終えた。世話した会社員藤本幸次さん(61)は昨年10月、手書きのメッセージを写真の横に添えた。「本当のかい主さん!!ローズを大切にしていましたよ」。生きていた時の姿を知ってほしいから。(福岡範行)

JR双葉駅の待ち合いスペースに置かれた「双葉駅ノート」。ローズの写真が挟み込まれ、元飼い主へのメッセージが書かれている=昨年12月、福島県双葉町で(佐藤哲紀撮影)

 藤本さんが犬を引き取ったのは2014年4月。被災地にボランティアに行けなかったことを悔やみ、犬の引き取りを思い立った。被災犬を保護するNPO法人をインターネットで見つけ、滋賀県内の施設を訪ねた。「一番、元気がなかった」という雌犬を選び、17年1月に死ぬまで飼った。

双葉駅近くで保護された当時のローズ=藤本幸次さん提供

 ローズはNPO法人で付けられた名。本名も飼い主も分からない。保護時は推定5~6歳。「顔は柴犬で、秋田犬のように毛がフワフワ。コーギーのように足が短くて、チョコチョコ歩いていました」
 飼い始めた直後は朝夕のドッグフードを1、2口しか食べず、あばら骨が浮いていた。室内で飼っていたのに、「静かすぎて、いるかいないか分からんようだった」と振り返る。

6年ほど前、藤本幸次さんの自宅でくつろぐローズ=藤本さん提供

 2カ月ほど過ぎたころ、毎日散歩する公園に小学生くらいの女の子がいた。「ローズがちゃーっと走っていって、女の子の横に座ったんです。その子にリードを渡したら、うれしそうに公園を歩いていた」。同じ年ごろの子に飼われていたんだろうか。ローズは1回だけ尻尾を振ってうれしそうなしぐさを見せるようになり、食欲も回復した。

2014年、うれしそうな表情を見せるローズ=藤本幸次さん提供

 おとなしい性格で、めったにほえず、周りに誰もいなくなると「キャン」と鳴いた。旅行でも必ず一緒。最期の日の朝、布団で寝ていた藤本さんの頭に体をくっつけて「キャン」とだけ鳴き、息を引き取った。
 20年3月に常磐線が全線再開し、藤本さんはその7カ月後にローズの骨つぼを手に双葉駅を訪ねた。駅周辺を歩くと、家の中にランドセルが転がっているのが見えた。「取る物も取りあえず逃げたままになっていた。『これが日本なんか』とがくぜんとした」
 本当の飼い主が愛犬を置いて避難したことを心残りに思っていたら―。「飼い主さんに少しでも安心してもらいたい」と、ローズの写真や連絡先を載せた紙を電柱に貼ろうと思ったが、人通りのなさを見てあきらめた。代わりに、同行した妻(61)が駅で見つけたノートにその紙を挟んだ。
 藤本さんは昨春、新型コロナウイルス感染拡大で政府が出した緊急事態宣言のころから、地元紙で知った双葉町出身の人が営む富山県高岡市の和食店をテークアウトなどで利用するようになった。
 「自分の力なんて微々たるもの。でも生きている限り、福島の物を買うとか、心掛けていきたい」。ローズと出会えて生まれた双葉町との縁が、思いもかけない場所でつながっている。

◆福島では犬2500頭が犠牲に 震災が保護対策強化のきかっけに

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故では、多くの人がペットとの別れを強いられた。環境省の被災動物対応記録集によると、福島県では推定約2500頭の飼い犬が死亡。双葉町など原発事故による避難指示が出た地域では、放射能汚染がひどく、ペットの救護活動も制限された。
 事故直後から防護服姿で救護を試みる民間団体はあったものの、県や環境省などによる正式な救護活動は事故から1カ月半後の2011年4月末からだった。
 環境省は震災後、災害時のペット保護対策を本格化。飼い主には狂犬病のワクチン接種などの事前の備えを促した上で、ペットを連れた避難を呼び掛けている。避難所を運営する自治体には、ペットが滞在できる場所の確保を要望。ペットを受け入れる避難所を公表する自治体も現れている。

PR情報