日韓関係の冷え込みさらに…元慰安婦訴訟判決の衝撃

2021年1月9日 16時00分

ソウル中央地裁で8日、判決後に会見する原告代理人の金江苑弁護士=相坂穣撮影

 日本政府に元慰安婦らへの賠償を命じた8日のソウル中央地裁判決は、国家は他国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則を適用しなかった。地裁が仮執行を認め、日本政府資産の差し押さえ手続きも可能になった。日本政府は強く反発。日韓関係の冷え込みの長期化は避けられそうにない。(上野実輝彦、ソウル・中村彰宏)

◆ナチスの強制労働めぐる判例を基に

 元慰安婦側が主権免除を否定する根拠に挙げたのが、欧州の判例だ。第2次大戦末期にドイツに強制労働を強いられたとするイタリア人男性が独政府に損害賠償を求め、イタリア最高裁は2004年に「訴えられた行為が国際犯罪である場合には、主権免除は適用されない」とドイツに賠償を命じた。12年の国際司法裁判所(ICJ)ではドイツが勝訴した。
 今回判決は欧州の事例に触れ、慰安婦動員が「反人道的な犯罪行為」だったと主権免除を否定。主権免除は「国際規範に違反し、他国の個人に大きな損害を負わせた国家が賠償や補償を回避できるようにつくられたものではない」とした。
 韓国では、慰安婦問題は批判が許されない「聖域」と呼ばれる。韓国の法曹関係者は判決は「国民感情を意識していないとは言えない」と世論に敏感な韓国司法の一面を示したと話す。

◆差し押さえの対象は

 日本政府は主権免除の原則から裁判に応じず、控訴もしない考えだ。菅義偉首相は8日、記者団に「訴訟は却下されるべきだ」と強調した。賠償に応じる可能性も極めて小さい。今後は日本政府の資産売却に向けた手続きが焦点になる。
 韓国内の日本政府資産は、大使館や総領事館、大使公邸などだが、外国公館への不可侵を定めたウィーン条約により、差し押さえは困難だ。原告側は、別の資産を探して差し押さえを申請するとみられる。朝鮮半島出身の元徴用工を巡り日本企業に賠償を命じた韓国最高裁判決でも日本企業の資産売却の動きがあるが、政府資産差し押さえや売却が実現すれば、日韓関係への打撃はけた違いだ。日本政府は、現金化されれば直ちに対抗措置を取る構えだ。

◆国際法より国内の司法判断

 判決で、日本政府の文在寅政権への不信感は一層深まった。日本政府は元慰安婦問題は1965年の日韓請求権協定や2015年の慰安婦合意で解決済みとの立場。政府高官の1人は「韓国は、国内の司法判断で国際法をひっくり返す」と話す。昨秋以降、韓国政府高官や韓日議連会長らが相次いで訪日し、雪解け機運もあったが、関係悪化に転じるのは確実。官邸幹部は「われわれに言っていることと、実際にやっていることが全く違う」と憤る。
 韓国外務省報道官は8日の声明で、15年の合意が「両国政府の公式合意」だと指摘しながらも「司法の判断を尊重する」とした。大統領府は公式反応を示していないが、文政権は「政治は司法に介入できない」との姿勢で一貫しており、今回も解決策を示さず静観する見込みだ。
 日韓議連幹事長の自民党の河村建夫・元官房長官は取材に「政府間の信頼関係に関わる判決だ。徴用工問題でも韓国政府から解決する対案が出てこない。極めて厳しい状況になってきた」と語った。韓国・峨山政策研究院のチェウン研究委員は「今回は日本政府が被告なだけに、元徴用工訴訟よりも影響が大きい。関係改善は一層難しくなった」と指摘している。

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