コロナにおびえ非科学に頼る人々 ロシアではシャーマン、アメリカではQアノン

2021年1月10日 06時00分

モスクワで昨年12月、供物となる食料を前に祈禱するオクサナ・キム=小柳悠志撮影

 青い衣をまとい、ヤギの皮でできた太鼓を打ち鳴らす。新型コロナウイルスが世界各地に広がり始めた昨年3月、ロシアでは神や霊魂との接触を通して予言や病状の改善を図るシャーマン(霊媒師)が、コロナ封じの祈禱を始めた。

◆終末論的な危機感

 「人々はウイルスに戸惑い、救いを求めている」と話すのは、極東ブリャート共和国の女性シャーマン、オクサナ・キム(51)。モスクワなど大都市に出張すると、2日に1度のペースで依頼が舞い込むという。
 ロシア北東国立大のアレクサンドラ・ポスペロワ教授は、終末論的な危機意識からシャーマンに癒やしを求める傾向が強まったと指摘。昨年ポスペロワらが発表した論文では、16~40歳の3割弱がシャーマニズムを「伝統の復活」「(先祖の)ルーツの探求」と肯定的に捉えたという。
 キムも「疫病の不安から、人々はかえって家族や友のありがたみを実感したのでは」と語る。
 一方、コロナ禍が環境破壊や人間関係の希薄さに対する「神の警告」とみるシャーマンの場合、プーチン政権は批判の矛先となり、あつれきが生じるケースも出ている。
 昨年5月、極東サハ共和国のシャーマン、アレクサンドル・ガビシェフ(52)が治安部隊によって精神科に入院させられた。彼の「プーチンは悪魔で、自然から愛されていない」との主張に支援の声が集まったためだ。その後解放されたが、本紙の電話取材に「新たな行動を起こす」と語るなど政権批判を続けている。
 未曽有の災難に遭うと、人は非科学的なものでも頼りたくなるのかもしれない。ただ、本来の感染対策の妨げとなる場合もある。

◆はびこる陰謀論

 米中西部ウィスコンシン州バーリントン。人口2万人ほどの町で教会の牧師を務めるジョン・ソーンゲート(32)は昨年夏、信者たちの異変に気付いた。教会の運営や新型コロナウイルスのワクチンの大切さなどを議論していると、彼らは突然、「陰謀論の話を始めるようになった」。
 「マスクは呼吸に有害だ」「マスクをすると、子どもを誘拐するヤツだと思われる」。一部の信者らが口々に語るのは、ネットで広がる陰謀論「Qアノン」の影響を受けた偽情報だ。人種差別的、反ユダヤ主義的な思想も含む荒唐無稽な内容だが、全米で数百万人もの信奉者がいるとされる。
 異変は日曜日の礼拝や信者との会合をオンラインに切り替えてしばらくしてだった。陰謀論を語るのは、300~400人いる教会信者の十数人ほどだが、ほとんどが大卒以上の30代前後の男女で、幼少からネットに親しみ、既存の新聞やテレビに背を向ける新世代だ。ソーンゲートは「孤立し、ネットだけとつながった人々が、自分たちに都合の良い話に飛び付いてしまったのかも」と分析する。
 フェイスブックやツイッターなどSNS大手は、対策として陰謀論に関連する投稿を削除し始めた。ソーンゲートも「陰謀や偽情報を信じそうになる自らの心理や衝動に気づけるよう、信者を助けていきたい」と誓っている。 (敬称略、モスクワで、小柳悠志、ニューヨーク・杉藤貴浩)

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