<再発見!伊豆学講座>伝統の技 文化遺産機に見直し期待

2021年1月10日 07時48分

なまこ壁を塗る技術を持つ左官職人、中村一夫さん=松崎町で

 昨秋、松崎町の旧依田邸で、左官職人の技を残す著書「左官回話」を出版した空間造形作家木村謙一氏にお目にかかった。左官仲間の一人が、四十年以上途絶えていた黒漆喰(しっくい)の磨きを復活させることができた、という。
 松崎は、平瓦を壁材とし、その目地としてしっくいをかまぼこ型に盛り上げた「なまこ壁」の建物があり、町は「なまこ壁の町」として観光に力を入れている。しかし町内のなまこ壁はかなり減り、消滅の瀬戸際にある。
 木村氏は全国になまこ壁の町がどこにあり、それを塗ることができる左官職人がどれだけいるか把握しているという。残念ながら松崎には中村一夫さん(79)しかおらず、後継者はいない。幕末から明治初期に活躍し「伊豆の長八」の別名を持つ鏝絵(こてえ)を芸術に高めた左官職人、入江長八を生んだ地だが、その灯が消えようとしている。
 松崎では、防火防風に優れたなまこ壁は富の象徴だった。そのため、それを持たない住民には税金での保存を良しとしない風潮があると聞く。新しい建築、生活様式で快適な住環境を求める現代の人には、保存は負担だろう。
 だが、それでは地域が育んだしっくい、左官職人の技が途絶えてしまう。誰かが引き継ぎ、後世に伝えるしかないが、仕事がなければ伝わりようがない。
 左官だけではない。家造りは工場で加工した木材を現場で組み立てる方式が増え、大工による昔ながらの工法が少なくなった。庭を造らない、ふすまのある家に住まない人が増え、庭師や経師の出番も減った。
 筆者は中学の教壇に立ったことがあるが、その教え子が父親の後を継ぎ庭師となった。父親は、職人を育てる必要を感じているが余裕がないという。「庭師の専門学校へ行ったつもりで職人に学費を払って弟子入りしてくれてもいいし、アルバイトしながら手伝いをしてくれれば後継者を育てられるが…」と話していた。
 例えば中学、高校の部活動の一環で放課後、地域の和菓子屋さんで働く、左官職人の手伝いや庭師の手伝いをする、などが認められれば、職人を目指す若者があるかもしれない。手間を省いて家が建ち、ホームセンターでふすま張りができる時代だが、本物は間違いなく違う。その良さに出会うことで、本物に向かう若者も現れると思う。
 昨年十二月十七日、左官(日本壁)や建造物木工など十七分野が「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」としてユネスコの無形文化遺産に登録を決めた。これをきっかけに伝統の技が見直され、伊豆のみならず各地で引き継がれていくことを期待したい。 (橋本敬之・伊豆学研究会理事長)

関連キーワード

PR情報

静岡の新着

記事一覧