「先祖伝来の土地、被災者だますようなことはいけない」 地権者団体会長<あの日から・福島原発事故10年>

2021年1月11日 06時00分
 東京電力福島第一原発(福島県大熊町・双葉町)のすぐそば、大熊町にある門馬好春さん(63)の実家を訪ねたのは昨年12月19日。冬でも温暖で知られるが、雪がちらついた。「こっちは雪、ふんねえだもん、ほんとは」。いつもは標準語の門馬さんがこの時は方言になった。(福岡範行)

◆帰省の際には必ず仏壇に手合わせる

 防護服姿の門馬さんは水色のビニールを靴にかぶせて部屋に入ると、金色に輝く大きな仏壇の前に座った。帰省の際には必ず手を合わせる。仏間のはりには、遺影のない額だけがぶら下がる。

仏壇に手を合わせる門馬さん

 3人きょうだいの3番目。子ども時代は貧しく、農家の父親は冬に出稼ぎをした。鍋の具が白菜ばかりの日も多かった。鶏が卵を産めなくなると、その肉を食べた。屋根まで逃げる鶏もいたが、「こちらも必死ですよ。鍋に鶏肉が入るかが懸かっていたんだから」。
 そんな生活は、原発の建設で変わった。父親が、1971年に営業運転が始まる福島第一原発建設に関わるようになると、出稼ぎはなくなった。門馬さんは飼っていたヤギの乳搾りをしなくなり、牛乳を買えるようになった。

◆家と土地、汚染土を保管する施設の候補地に

 原発事故が起きた10年前、父親は既に亡くなっていた。あの日、門馬さんは神奈川県内の職場にいた。実家の家族に電話がつながらない。原発で水素爆発が起き、不安ばかり募った。みんなの無事を確認できたのは数日後だった。
 避難指示で主を失った家と土地は、放射能で汚染された土を保管する施設の候補地になった。
 「汚染土は早く回収すべきです。大熊、双葉の人が避難先でお世話になっていますし」。国の事業には賛成の立場だ。
 ただ、それは国が「30年以内に県外で最終処分するという約束を果たすことが条件」と念を押す。

◆「最後は金目でしょ」石原環境相の発言に怒る

 中間貯蔵施設という事業で国は当初、福島第一周辺に広がる1600ヘクタールの国有地化を目指した。「最終処分場にされるのでは」と懸念する地権者ら住民に対し、国は説明会を開いた。その直後の2014年6月、石原伸晃環境相(当時)が「最後は金目でしょ」と口にした。
 地権者らは一斉に反発。国は全面国有化を断念し、地権者が土地を国に売るか、貸すかを選べるようにした。だが、これには国に有利な面が隠されていた。
 気付いたのは、門馬さんらが14年末につくった地権者会。土地を貸す地上権の契約書に「国が期間を自動延長できる」条文があり、環境省との交渉で修正させた。

家の様子をカメラに収める門馬さん

 土地を貸す場合の補償が国の統一ルールに書かれていない方法で算定されたことも問題視。「国有地化に応じた方が有利な補償になっていて、国の都合の押しつけだ」と訴える。

◆地権者会と国の議論、6年たっても平行線

 会長を務める地権者会と国との議論は、6年たっても平行線だ。地元の同級生からは「何やってんだ」とあきれられたこともあったが、経緯を説明すると応援してくれるようになった。
 「先祖伝来の土地を使うんだから、被災者をだますようなことはいけない」。家を囲む土のうの山の前にダンプが列を作る。鈍いエンジン音と鳥の鳴き声が響く中、門馬さんははっきりと言った。

1年2ヵ月ぶりに実家を訪れ、玄関前に立つ門馬さん


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