<スポーツ探偵>鬼ごっこ「ことろことろ」 「鬼滅」につながる童遊び 親が鬼から子を守る

2021年1月13日 06時59分

「ことろことろ」で遊ぶ子どもたち。一番左が鬼、その前で手を広げるのが親、後ろの6人が子(鬼ごっこ協会提供)

 漫画や映画で記録的なヒットを続ける「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」。その世界観に深く結び付く遊びがある。鬼ごっこの一種で「ことろことろ」という。平安時代から続く古(いにしえ)の鬼ごっこを調査すると、「鬼滅の刃」の人気につながる意外な関係が見えてきた。

東照宮・陽明門に彫られた「唐子の知恵遊び」の一つ。「ことろことろ」で遊ぶ姿だと伝えられている

 栃木県・日光東照宮の陽明門には不思議な彫刻がある。当時の子どもの様子を彫った「唐子(からこ)の知恵遊び」。その中に、列を作って遊ぶ子どもたちがいる。これは千二百年前の平安時代から伝わる鬼ごっこ「ことろことろ」を表したものだ。
 「今は見かけなくなってしまいましたが、ことろことろは明治、大正時代まで誰もが知るメジャーな遊びでした。年代的に八十五歳以上の方なら知っている人もいると思いますよ」。こう説明するのは一般社団法人・鬼ごっこ協会理事の羽崎(はざき)貴雄さん(37)。約十年前に協会を設立し、鬼ごっこの研究を続けてきた。
 一口に鬼ごっこといっても、さまざまな種類がある。「子をとろことろ」や「親とり子とり」とも呼ばれるこの鬼ごっこの特徴は子が列を作ることと、鬼と子の他に「親」がいることだ。親が列の一番前で手を広げて立ちはだかり、後ろの子たちを鬼から守る。鬼は子を触るか、列が切れてしまうと勝ち。子は決められた時間、鬼から逃げられれば勝ちとなる。
 原型は神社仏閣の儀式にあるという。古来、日本では自分たちを苦しめる疫病や災害を鬼の仕業とし、地蔵菩薩(ぼさつ)が守ってくれると信じられてきた。今でも宮中行事に「追儺(ついな)」と呼ばれる鬼払いの儀式があるが、各地でこの儀式を見た子どもが「ごっこ遊び」にしたのがことろことろになったと同協会は考えている。
 強い者が鬼から弱い者を守る。羽崎さんは言う。「何かと似ていませんか? 今、鬼滅の刃が話題ですが、柱という強い人たちが鬼と戦い、弱い者を守る物語はことろことろそのものなんです」
 作者の吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)さんもことろことろを知っていたようだ。本編には出てこないが、吾峠さんが書いた公式ファンブックには主人公の仲間・伊之助の趣味が「ことろことろという童(わらわ)遊び」で、それを炭治郎に教えてもらったこと、仲間の善逸(ぜんいつ)は、いつも負けていることが記されている。「作者はこの鬼ごっこから作品のヒントを得たと私は考えています」と羽崎さんは推測する。
 疫病という恐ろしい鬼を倒してほしい。強い存在がきっと守ってくれる。日本人はそう考え、遊びの中に残してきた。なぜ、コロナ禍の日本で「鬼滅の刃」がここまでヒットしたのか−。古の鬼ごっこの物語が、忘れていた私たちの記憶に反応したからだと考えれば、合点がいく。羽崎さんは今、「自分より弱い人を守ることは当たり前だと学べる。この素晴らしい遊びを途絶えさせてはいけない」と、ことろことろの復活と普及に力を入れている。

鬼(右端)から人々を守る地蔵菩薩(右から2人目)=骨董集から、国立国会図書館提供

◆現代はスポーツに

スポーツ鬼ごっこを楽しむ小学生たち(鬼ごっこ協会提供)

 鬼ごっこ協会によると、鬼ごっこのような追いかけっこは世界中で行われており、日本だけで3000ほどの種類がある。海外では「大鷲と小鳥」「狼(おおかみ)とダチョウ」など、動物の名を使うことがほとんどで、日本のように鬼という架空の存在で呼ばれるのは珍しいそうだ。
 そんな鬼ごっこを現代風にアレンジしたのが、「スポーツ鬼ごっこ」だ。協会監事で競技審判のS級ライセンスを持っている平峯(ひらみね)佑志さん(35)は「ルールは簡単なので、小学校1年生くらいであればすぐにプレーできます」。
 7対7のチーム戦。5分ハーフで行われ、相手コート内の宝を多く獲得したチームの勝ちとなる。両手でタッチされると自陣に戻らなくてはいけないので、戦略が必要だ。学校の授業で実施されているところもあり、競技人口は10万人ほどいるという。
 動きがサッカーに似ていることから、「鹿島やFC東京など、Jリーグの育成世代の練習で活用されている」(同協会)。日本代表もあり、目指すは五輪競技入り。「道具もそれほどいらないですし、誰でもできるという点で五輪に向いている。将来、全世界の人にスポーツ鬼ごっこを楽しんでもらえたらいいですね」と平峯さんは笑った。
 文・谷野哲郎
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報

TOKYO発の新着

記事一覧