「国民的熱狂をつくってはいけない」半藤一利さんが残した昭和史5つの教訓

2021年1月13日 19時18分
 「薩長史観」に彩られた明治150年、勝者が裁いた東京裁判、平成と象徴天皇、トランプ米大統領就任後の世界―。本紙は2015年から、半藤一利さんとノンフィクション作家の保阪正康さん(81)を招いて、上記のテーマで対談していただいた。終了後、一献傾けながら昭和史の秘話を伺う時間は至福のひとときだった。

平和について語る半藤一利さん=2019年8月、東京・内幸町の東京新聞で

 半藤さんは17歳の時、東京裁判を傍聴した。旧制高校の同級生だった元駐イタリア大使、白鳥敏夫の子息に誘われ関係者席に座った。A級戦犯に問われた軍人らを見て思ったという。
 「戦争のリーダーはこんなくたびれた老人ばかりかと驚いた。これじゃ勝てるわけない」
 九死に一生を得た東京大空襲の体験。そして、編集者として数多くの旧軍人らに直接取材した経験が原点だった。失敗の記録を残さず、教訓を次代に継承しなかった陸海軍に厳しく視線を向けてきた。
 1963年に敗戦時に政府や軍中枢にいた人物や、前線にいた将兵ら28人を集めた座談会を開き、「日本のいちばん長い日」として公表した。内閣書記官長(現・官房長官)をはじめ、首相秘書官、外務次官、駐ソ大使、侍従、陸海軍の作戦・軍政の責任者。捕虜になった作家の大岡昇平氏、「玉音放送」を収録した録音盤を守ったNHKアナウンサーらがそれぞれの視点で戦争を語った。これだけのメンバーを集めたのも、歴史的な証言を残したいという強い思いからだろう。
 「大事なことはすべて昭和史に書いてある」と語っていた半藤さんは、そこから学ぶべき5つの教訓を挙げている。
 ①国民的熱狂をつくってはいけない。そのためにも言論の自由・出版の自由こそが生命である。
 ②最大の危機において日本人は抽象的な観念論を好む。それを警戒せよ。すなわちリアリズムに徹せよ。
 ③日本型タコツボにおけるエリート小集団主義(例・旧日本陸軍参謀本部作戦課)の弊害を常に心せよ。
 ④国際的常識の欠如に絶えず気を配るべし。
 ⑤すぐに成果を求める短兵急な発想をやめよ。ロングレンジのものの見方を心がけよ。
 コロナ禍に苦しむ現在の社会でも、心にとどめたい教訓である。
 半藤さんは保阪さんと共著で刊行した「そして、メディアは日本を戦争に導いた」(東洋経済新報社)で「(戦時中の新聞は)沈黙を余儀なくされたのではなく、商売のために軍部と一緒になって走った」と厳しい目を向けている。私たちは決して同じ轍を踏んではならない。再び戦争をする国にしない。それが半藤さんの志を継ぐことであると思う。(編集局次長・瀬口晴義)

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