【独自】柴又の料亭「川甚」がコロナ禍で創業231年の歴史に幕 寅さんロケ地、倍賞千恵子さんも「寂しい」

2021年1月14日 20時00分

川魚料理の老舗「川甚」

 江戸時代から続く川魚料理の名店で、夏目漱石ら文豪に愛され、映画「男はつらいよ」では寅さんの妹さくらの披露宴で舞台になった東京・葛飾柴又の料亭「川甚かわじん」が、コロナ禍による経営難を理由に1月末で閉店する。創業231年。都内で相次ぐ飲食店の「コロナ閉店」の中で最も歴史ある店。日本食の文化継承に影響が出ると心配する声も上がる。(加藤健太)

「男はつらいよ」第1作で描かれたままの風情を残す川甚の玄関

 都会の喧噪から離れた、東京と千葉の都県境を流れる江戸川のほとり。柴又帝釈天に近い立地から、観光客だけでなく、婚礼や法要などで地元の人にも親しまれてきたが、コロナの感染拡大で売り上げが減った。8代目社長の天宮一輝かずてるさん(69)は「いくらシミュレーションしても明るい兆しが見えなかった」と明かす。支援制度を目いっぱい使い、光熱費なども切り詰めてきたが限界だった。閉店は昨年末に決断した。

◆さくら役の倍賞千恵子さんも「寂しい」

 1969年公開の「男はつらいよ」第1作で、さくらと博の結婚披露宴の場として描かれ、名前が知れ渡った。さくら役を演じた俳優の倍賞千恵子さん(79)は本紙の取材に「玄関のたたずまいが印象的だった。とても残念で寂しい」と名残惜しむ。

明治38年の川甚

 江戸・寛政年間の1790年に創業。明治になり、幸田露伴の小説「付焼刃つけやきば」を皮切りに、文学作品で江戸川を描写する際は土手ではなく、川甚の座敷から見た風景を描くのが定着した。夏目漱石の「彼岸過迄」や松本清張の「風の視線」にも実名で登場する。

◆メディア初公開 泥臭さを抜く「いけす」

川魚特有の泥臭さを抜いていた敷地内のいけす

 切り身を氷水で締める「洗い」、みそで煮込む「鯉こく」などのコイ料理が名物だった。井戸水をためたいけすを敷地内に設け、仕入れた活魚をいったん放つ独自の手法で川魚特有の泥臭さを抜いている。「川魚は鮮度が命。作り置きはするな」。天宮家に代々伝わる「おきて」だ。

名物だったコイの洗い㊦とみそで煮込んだ「鯉こく」

 新鮮なコイが食べられる店は減っている。葛飾区観光課の学芸員谷口栄さん(59)は「東京の川魚料理を代表する川甚がなくなると、日本の食文化に親しむ機会が少なくなってしまうのでは」と危ぶむ。
 コロナ禍では昨年、歌舞伎座(中央区)前の弁当店「木挽町辨松こびきちょうべんまつ」や、西新井大師(足立区)参道の「割烹 武蔵屋」など江戸時代に創業した老舗の閉店が続いた。情報サイト「老舗食堂」を運営する相川知輝さん(42)は「川甚はコロナで閉店する都内の飲食店では一番古い。老舗の閉店が、コロナ禍で前倒しされている印象だ」と語る。
 閉店を惜しむ声に、天宮さんは「地域やファンの支えでやってこられた。先代からのバトンをつなげなかったのは残念だが、私の代で終わり。コロナに恨みはないし、決断に後悔もない」と思いを明かした。

8代目社長の天宮一輝さん

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