<中村雅之 和菓子の芸心>「与五郎 忍」(神奈川県箱根町・ちもと) 赤穂浪士の心情 形に 

2021年1月15日 07時14分

イラスト・中村鎭

 日本人は、耐え忍ぶ人が好きだ。古くから芸能の世界では、主人公がひたすら耐え忍んだ末に願いを叶(かな)える、という筋立てが人気を呼んだ。虐(いじ)められ方が酷(ひど)ければ酷いほど物語に引き込まれ、スカッとする度合いが強い。
 テレビの時代になっても、花登筺(はなとこばこ)原作の「細うで繁盛記」やNHKの「連続テレビ小説」の「おしん」などが、視聴者を釘(くぎ)づけにした。
 その原点であり、最高傑作と言えるのは、歌舞伎、講談、浪曲などで、さまざまに取り上げられた「赤穂浪士」。その人気の秘密は、四十七士一人ひとりが、貧しさ、肉親への不義理、他人からのそしり、中傷などに、じっと耐え忍んだ末に本懐を遂げる、という点にある。そのため、「赤穂浪士」は、義士それぞれに焦点を絞った「外伝」が数多く作られ、厚みを増した。
 その中でも、名場面の一つに数えられるのが「神崎与五郎 東下り」だ。国許(くにもと)の赤穂にいた与五郎は、討ち入りに加わろうと江戸に向かうが、道中、箱根の茶屋で一服していると、質(たち)の悪い馬子に絡まれる。激怒した与五郎は、無礼討ちにしようと、思わず刀の鍔(つば)に手を掛けるが、大事を前に、事を荒立てるわけにはいかず、じっと耐え忍び、「詫(わ)び状」を残す。

与五郎も通った箱根関所。図面が発見され、近年、忠実に復元された

 その与五郎の心情を和菓子にしたのが、地元・箱根にある「ちもと」の「与五郎 忍(しのぶ)」。つぶし餡(あん)を挟む皮は、鍔の形をしている。落花生と胡麻(ごま)を素材として焼き上げられ香ばしく、俳人でもあった与五郎の一面を彷彿(ほうふつ)とさせてくれる。詫び状風の包み紙の真ん中に、「忍」の一字が大きく記されているのも心憎い。(横浜能楽堂芸術監督)
<ちもと駅前通り店> 神奈川県箱根町湯本690=(電)0460・85・5632。3個入り1020円(箱代含む)。

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