トランプ氏にあおられて「偉大な愛国者」たちは一線を越えた 議会占拠で見た陰謀論の根深さ

2021年1月16日 06時00分

6日、支持者集会に参加するトランプ大統領=AP

 トランプ米大統領にあおられた支持者が星条旗を振りかざしながら連邦議会議事堂を襲撃し占拠する。信じられないような光景を目の当たりにして言葉を失った。捜査当局は100人以上を刑事訴追し、その数は最終的には数百人に上るという。ただ、過激な暴徒を摘発し尽くしても「選挙はトランプ氏が勝っていた」という陰謀論は消えそうにない。トランプ氏の支持はそれほど浸透している。

◆「投票用紙が捨てられて…」訴える女性

 「私はこの国とトランプ大統領を愛している。人工妊娠中絶反対、親イスラエル政策…。すばらしい仕事をしてくれた。なのにこの悪夢だ」
 6日にホワイトハウス南側の広場で開かれたトランプ氏の支持者集会。南部フロリダ州からやって来たコリーン・トレスさん(53)は、トランプ氏をかたどった等身大の看板を抱えながら、大統領選で使われた「ドミニオン社」製の集計機械の不正操作により、トランプ票がバイデン票に差し替えられたという陰謀論を切々と語った。夫は牧師。本人も熱心なクリスチャンで「バイデン氏が20日に大統領に就任するとは思わないが、もしそうなったら、国のために祈り続けるしかない」とも話した。

トランプ大統領の等身大の看板を掲げるコリーン・トレスさん=岩田仲弘撮影

 東部ニューヨーク州のモリーン・ホリムさんも「投開票日に(激戦の)6州で票の集計が突然止まり、投票用紙が捨てられ始めた。組織的な犯罪だ。これが許されれば、私たちは自由や国家を失ってしまう」と、やはり陰謀論を根拠に自由を訴えた。
 参加者はほとんど白人で、会場は星条旗であふれていた。これまで当たり前の光景だと思っていたが、権力に対して人種差別を抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」運動との違いを改めて感じた。

◆「76」の星条旗を振る「革命の志士」

 目を凝らすといろんな旗がある。米国が独立宣言した1776年の「76」があしらわれた昔の星条旗もあちこちにはためいていた。参加者はそれぞれ、トランプ氏を指導者とする革命の志士になぞらえているようだった。

独立宣言した1776年の「76」があしらわれた昔の星条旗=岩田仲弘撮影

 トランプ氏はこうした様子を満足そうに眺めつつ、「私たちは選挙で大勝利を収めた」「もし死に物狂いで戦わなければ、あなたたちは国を失う」とあおり、議事堂に向かうよう呼び掛けた。
 ただ、その時は「いつまで選挙キャンペーンを続けるつもりだろう」とぐらいに高をくくっていたのも事実だ。そのころ集会場所から約3キロ東の議事堂内に暴徒がなだれ込み、流血を伴う大惨事になっていたとは想像もつかなかった。

「自由の女神」に変装したジェニファー・ウォーカーさん(右)=岩田仲弘撮影

◆怒号飛び交う議事堂周辺 その中では…

 「USA! USA!」「誰の議事堂だ? われわれの議事堂だ!」。議事堂に近づくにつれ、怒号や連呼が飛び交い始める。
 到着した時は、暴徒らがすでに内部から排除され始めていた。それでも壁をよじ登って建物に近づこうという人たちが相次ぐなど、現場は騒然としていた。
 結局、議事堂内には入れなかった。後に米メディアが、ペロシ下院議長の部屋で机の上に足を上げてポーズを取る男や、ペロシ氏の演台を堂々と盗んでほほ笑む男ら「死に物狂いで戦う」という大統領のお墨付きを得た侵入者らが縦横無尽に議場内を暴れ回る姿を次々と報じて戦慄せんりつを覚えた。

◆首謀者らは「みな有名な極右」

 イェール大のジェイコブ・ハッカー教授(政治学)は「共和党支持のコア層が急進的になり、反民主的な過激思想を許容しやすくなっている」と懸念する。こうした傾向は、宗教や人種、銃の保持などに保守的な価値を重んじる白人の中年男性が中心で、特に中間層や比較的裕福な階層に顕著にみられるという。
 「今回、首謀者として名前が挙がっている極右の人物はみな有名で、国内テロを研究している人たちで知らない人はいない」とも強調。さらに「難しいのは、こうした極右の人物に誰がついて行くのか、誰が一線を超えるか予測することだ」と話す。

6日、米ワシントンで、議事堂に侵入したトランプ大統領の支持者ら=AP

 今回、トランプ氏から「死に物狂いで戦え」とあおられ、雪崩を打ったように一線を超えた支持者は多いとみられる。トランプ氏は反乱を扇動したとして13日、連邦議会下院から弾劾訴追された。さすがにその直後には「暴力や不法行為、破壊はあってはならない」と支持者に自制を求めたが、それまでは暴徒を含めてすべて「偉大な愛国者」でひとくくりにした。

◆「革命」いつまで続くのか

 これだけの事件を起こしてもなお、トランプ氏の支持が落ちる気配はない。
 米キニピアック大の直近の調査では、トランプ氏が民主主義を「損なっている」と答えたのは共和党支持者の中では20%にとどまる。議事堂を襲撃、占拠した人たちが民主主義を「損なっている」と答えたのはさすがに70%に上るが、トランプ氏にその責任があると答えたのは17%にすぎない。
 トランプ氏と支持者による勝利を勝ち取るための「革命」はいつまで続くのだろうか。(ワシントン・岩田仲弘)

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