いじめ自殺提訴 訴えを重く受け止めよ

2021年1月16日 07時49分
 兵庫県加古川市の中二女子生徒が二〇一六年にいじめ自殺した問題で学校側が事実を隠蔽(いんぺい)した疑いが浮上した。多くの悲劇が繰り返される中、いじめ対策は進むが、現場への浸透になお疑問が残る。
 いじめ防止対策推進法は一三年、教育現場の隠蔽体質や事なかれ主義を浮き彫りにした大津市の中学二年男子生徒の自殺事件(一一年)を受け、施行された。児童生徒の生命や心身、財産に重大な被害が生じる疑いなどを認めた場合、学校側に調査委の設置などを義務付けた。過去のいじめ事案に共通する学校側の「重い腰」を踏まえ、事実確認後でなく、「疑い」が生じた段階での敏速な対応を強調した。
 加古川のケースで、女子生徒は中一のころからクラスや部活動で無視や仲間外れをされた。自殺から三カ月後に発足した第三者委は学校側が女子生徒の訴えを見過ごさなければ、自殺は防げたと指摘した。同級生らに聞き取ったメモを破棄するなど、隠蔽の疑いが今年に入り発覚し、遺族が学校側を相手に提訴したことも分かった。いじめの実態や対応の是非は法廷で厳しく問われるべきだ。
 いじめの認知件数は一九九〇年代と比べ桁違いに増えた。全国の国公私立の小中高校と特別支援学校での認知件数は二〇一九年度、六十一万件に達し、過去最多を更新した。認知の多さを「積極的な掘り起こし」の成果として肯定的に受け止めるようになったのは、愛知県西尾市の中学二年、大河内清輝さんが一九九四年にいじめを苦に自殺した事件後からだ。父祥晴(よしはる)さんは「子どもたちにもっと目を向けて」と訴え続けている。
 残念なことに、いじめ自殺は一向に減らない。総じて言えるのは文部科学省が一七年作成のガイドラインで「軽々に『いじめはなかった』『学校側に責任はない』という判断をしない」「児童生徒や保護者からの申し立ては学校側が知り得ない極めて重要な情報」と指摘するにもかかわらず、現場に十分浸透していないことだ。
 いじめ防止法は遺族の働き掛けで改正の動きがあった。いじめの対策委や対策主任の新設、不適切な対応への罰則規定など国会議員による検討も進んだが、一九年春以降は尻すぼみ。「教員の働き方改革」論議を受け、現場へのさらなる負担強化を避けたいとの配慮も背景にあるとされるが、いま、この瞬間も苦悩しているかもしれない若い命のことを決して忘れずにいたい。

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