森崎和江さん「慶州は母の呼び声」翻訳 追憶の朝鮮半島、韓国でも

2021年1月16日 07時49分

森崎和江さんの翻訳本を手にする松井理恵さん=都内で

 日本統治時代の朝鮮半島で生まれた作家、森崎和江さんの自伝を日韓の研究者が協力して韓国語に翻訳、出版した。地元の人たちも知らない当時の生活ぶりが描かれており、反響を呼んでいるという。 (五味洋治)
 翻訳されたのは森崎さんの代表作の一つ「慶州は母の呼び声」。日本では一九八四年に出版され、長く読み継がれている。
 森崎さんは二七年、現在の韓国南部、大邱(テグ)で生まれた。教員だった父の転勤に伴い、十七歳になるまで慶州などで暮らした。
 朝鮮の若者たちの教育に情熱を注ぐ父の姿を軸に、森崎さんが直接体験した暮らしや、地元の人たちとの交流が描かれている。
 森崎さんは日本に帰国後、九州の炭鉱や、貧しさから海外に売られた女性「からゆきさん」に関する著作を発表。いずれも、朝鮮半島での体験が出発点だった。
 韓国の地域づくりを研究し、たびたび大邱を訪問していた跡見学園女子大学(東京都文京区)講師の松井理恵さん(41)が、日本人の目から町の様子を丁寧に描いたこの本の存在を知り、翻訳を思い立った。森崎さんも、「ぜひ翻訳してほしい」と快諾してくれた。

朴承柱さん=本人提供

 大邱で大学講師や日韓の交流活動を行っている知人の朴承柱(パクスンジュ)さんとともに七年越しで翻訳作業を進めた。昨年末、人文系出版社、「クルハンアリ社」からの出版にこぎ着けた。
 韓国の読者の理解の助けになればと、大邱や慶州の様子を伝える地図や写真、絵はがきなど約八十点の図版も掲載された。
 いずれも原著にはないが、森崎さんや、地元の郷土史家が所有していたり、松井さんが日本のオークションサイトなどから落札して、コツコツと集めたものだ。
 読者からは「地域史の資料として大変意味のある翻訳だ」「昔を思い出しながら読んだ」などという反応があったという。
 松井さんは、「当時の日本人の生活や、植民地で生まれ育った森崎さんの心情を読み取ってもらえれば」。朴さんも「森崎さんがこの作品を通して伝えようとした生まれ育った故郷に対する切なる思いを素直に感じてほしい」と期待を込めている。
 松井さんたちは、この本を使ったオンラインの読書会などの企画も立てているという。

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