[献立一週間] 岐阜市 渡邊小百合(55)

2021年1月17日 07時31分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修

[トンネル] 東京都世田谷区・学生・15歳 松原橘花

 朝、電車の中で
 「ねぇ、聞いてる?」
 と、隣の席に座っている友だちに言われた。
 私の最寄り駅には、次の駅までの間にトンネルがある。
 二年前、学校で友だちができないと悩んでいた日の朝
 「このトンネルを抜けたら友だちができますように」
 と願っていた。
 そんなことを思い出したら、当たり前に隣に友だちがいることは、幸せだと思った。
 昔、学校の先生が「懐かしい場所に行ったら、どんな気持ちだったか思い出した」と言っていた。
 トンネルを抜ける間、不安だった頃の気持ちを思いだして、いつもより笑顔で、「ごめん、ぼーっとしてた」と返事をした。

<評> いつもの通学電車内で、ふわりと心に浮かんだ幸せ感覚。作者の晴れ渡った気持ちを想像すると、読者も思わず、いつもより幸せな笑顔を浮かべたくなります。トンネルを抜けて、素敵(すてき)な一日の始まり。

[猫] 岐阜県羽島市・会社員・50歳 森明春

 会社帰り、駅の改札を出た。
 降り続いた雨は上がり、十六夜(いざよい)の月が浮かんでいる。道の水溜(た)まりにその月が映っている。
 僕の前に猫が歩いている。僕を時折見て、付かず離れずの距離を保っている。「可愛(かわい)いなぁ」と思い、後を付いていく。
 月の美しさに目を離したら、猫を見失った。辺りを捜していると、少し先に灯(あか)りが一つ。近寄ると赤提灯(あかちょうちん)に「おでん」の文字。
 初めての店だが「軽く一杯」と思い、ドキドキしながら入り口を開ける。
 「いらっしゃいませ」の声。熱燗(あつかん)とおでんを注文し、女将(おかみ)と談笑しながら「落ち着くなぁ」と、店内を見渡す。
 カウンターの端に招き猫。台座から落ちかけ、周りが濡(ぬ)れている。
 「もしかして、おまえに連れて来られたか?」

<評> 月光に照らされた夜道の向こうに、ぽつんと赤提灯。おでんの湯気に誘われて…暖簾(のれん)をくぐるのは初めてでも、案内役の猫ちゃんとは、すでに顔なじみだったようです。以後、せいぜい、ご贔屓(ひいき)に。


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