補助金の倍増を狙う養鶏業界の「100億円構想」 実現への近道は

2021年1月18日 06時00分
ケージで飼育される鶏

ケージで飼育される鶏

  • ケージで飼育される鶏
<政官業の蜜月・元農相汚職事件(下)>
 東京都郊外の養鶏場を訪れると、幅約20センチの鉄製のケージに、鶏が2羽ずつ押し込められていた。ケージの隙間から首を出して餌をつつく以外、羽を伸ばすことも歩くこともままならない。生後5カ月ほどで卵を産み始め、その1年後には食肉用に出荷される。
 養鶏場を営む男性(37)は「自分だったら、こんな狭いところ耐えられないよ」と苦笑い。ケージを使わない平飼いなど「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に基づく飼育方法が国際社会では主流となっているが、「コストがかかりすぎる。とてもじゃないが、やっていけない」と訴えた。
 自民党衆院議員だった吉川貴盛元農相(70)が鶏卵業者から500万円を受け取ったとして、東京地検特捜部に収賄罪で起訴された汚職事件。鶏卵業界は、生産量が年250万トン程度、売上額は年5000億円前後で安定的に推移している。ある業者は「餌代などの負担が大きく、流通価格が不安定になると経営が厳しくなる。国の補助金は本当にありがたい」と話す。
 農林水産省は1970年代、「鶏卵の安定供給と業者の安定経営」を図るため、流通価格が下がったとき業者に補助金を出し、経営を助けてきた。2011年には、供給量が増えすぎることで価格が下がらないよう、鶏舎を空けておくことに対する補助金も新設。それまで年に12億円程度だった補助金は51億円に増え、以降は同程度の額が拠出されている。
 「俺が政治家に掛け合って補助金を取ってきた」
 吉川元農相に500万円の賄賂を渡したとされる鶏卵生産大手「アキタフーズ」(広島県)の秋田善祺元代表(87)=贈賄罪で起訴=は周囲にそう話していたという。
 だが、政治家との距離を縮めようとしていたのは元代表だけではない。吉川元農相ら「農水族」などの国会議員26人側の政治資金収支報告書によると、業者らでつくる政治団体「日本養鶏政治連盟」(16年に解散)は11~15年の5年間、寄付やパーティー券購入で少なくとも計約1230万円を提供している。12年と14年には、当時官房長官だった菅義偉首相に計30万円寄付していた。
 鶏卵業界の補助金は、年170億円の養豚業界、980億円の肉牛業界には遠く及ばない。秋田元代表は周囲に「同じ畜産業なのに十分な政治的恩恵を受けられていない」とこぼし、補助金を倍増させる「100億円構想」を描いていた。
 日本養鶏協会の元幹部は「秋田さんとは60年来の同志。業界のために働く立派な方だ。業界が恩恵を受けるには、政治家と付き合うのが一番の近道で、私も自腹を切って政治家のためにいろいろなことをしてきたもんだよ」と振り返る。
 16年には週刊誌で、同協会幹部が農水族議員ら5人に現金計80万円を渡した疑惑も報じられた鶏卵業界。元幹部はあっけらかんと言った。「似たようなことは、ほかでもあるんじゃないの」
 (この連載は、池田悌一、井上真典、小沢慧一、山下葉月、山田雄之、沢田千秋が担当しました)

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