きつい仕事、コロナで解雇、行き場失い集団生活…犯罪に<夢見た果てに 追い込まれるベトナム人㊤>

2021年1月19日 06時00分
 労働力不足解消のため、政府が外国人労働者の受け入れをすすめる中、働きながら技術を学ぶ技能実習生などとして来日するベトナム人が急増している。まじめに働き、日本になじむ人たちがいる一方、犯罪に走る人も一部にいる。「豊かになりたい」と夢を抱いて来た日本で、彼らが見た現実とは何だったのか。コロナ禍の影響とは。現場を歩いた。

◆日本名の表札かかった古い木造民家に8人

 群馬県伊勢崎市を流れる広瀬川沿いの住宅街に、日本名の表札がかかった古い木造2階建て住宅がある。昨年8月、空き家だったこの住宅でベトナム人の男女8人が集団生活を始めた。

逮捕されたベトナム人たちが集団生活を送っていた古い木造住宅=群馬県伊勢崎市で

 2カ月ほどたち、この住宅に宛て、ベトナムから国際郵便が届いた。干しエビの袋の中には、末端価格約800万円に上る合成麻薬MDMAが隠されていた。
 警視庁の捜査員は11月、住宅に踏み込んだ。その場にいた6人は麻薬特例法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕。不在だった2人の行方は今も分からない。

◆20、30代の元技能実習生や元留学生

 逮捕されたのは2、30代の元技能実習生や元留学生だった。警視庁によるとMDMAは同国人に売る目的だったらしい。
 近所の女性は「地元住民との付き合いはなかった。夜まで音楽をかけていて、何をしている人たちなのかと思った」と振り返る。
 8人は千葉県や埼玉県にいたが、仕事がきついと実習先の工場などを逃げ出したり、新型コロナウイルス感染拡大の影響で人員削減に遭い解雇されたりしていた。行き場を失って会員制交流サイト(SNS)などを通じて知り合い、伊勢崎市で一緒に暮らしていた。

◆19年に在日ベトナム人、過去最多の41万人超

 法務省によると、2019年末現在の在日ベトナム人は約41万2000人で、前年から2割以上増え、過去最多を記録した。
 実習先の農地や工場が多い群馬県は、ベトナム人が急増している地域だ。同県によると、19年末時点で県内で暮らすベトナム人は9836人。14年末の2946人から3.3倍に増え、ベトナム人コミュニティーが拡大。昨年はさらに、コロナ禍で困窮したベトナム人らが、他地域から集まってきた。
 来日増と困窮は、犯罪の増加という影を落とす。警察庁によると、19年に摘発されたベトナム人は3365人で、15年と比べて7割増。昨年後半には群馬県や埼玉県で、家畜や果物の盗難事件が相次ぎ、ベトナム人グループが摘発されている。
 日本社会に溶け込む努力をしてきたベトナム人たちは、やりきれなさを抱く。

逮捕されたベトナム人は庭をいじっていた日もあったという

 「以前は『どこから来たの』と聞かれたら、自信をもって『ベトナムから』と答えていたけど、今は小さい声で答えてしまう」
 6年半前に留学で来日後、群馬県内の企業に就職した女性フン・ティ・ホン・ニュンさん(25)は同胞の事件に「恥ずかしい」と憤り、「お金がないから(犯罪に走る)というのは言い訳だと思う」とうつむく。

◆実習生受け入れ、インドネシア人に切り替える会社も

 前橋市でベトナムら外国人労働者を支援するベトナムサポートセンター代表の森田高志さん(43)によると、ベトナム人へのイメージの悪化から、技能実習生の受け入れをベトナム人からインドネシア人に切り替えた会社があるという。
 森田さんはベトナムで留学や勤務の経験がある。これまで知り合ったベトナムの若者は「ほとんどが純粋ないい子」だったという。それだけに、彼らが犯罪に走る現実がつらい。「本人ではなく、会社に問題があることも多い。相談に乗るなどして、ドロップアウトしないための環境を整えたい」(佐藤大)

関連キーワード

PR情報

社会の新着

記事一覧