70年間、サラリーマンの味方であり続ける「牛乳の聖地」50種類そろうミルクスタンド ふるさとの味を秋葉原駅で

2021年1月19日 09時00分

JR秋葉原駅の総武線6番線ホームにあるミルクスタンド

 瓶のままグビッ。家電やパソコン、サブカルチャーの街には「牛乳の聖地」もある。JR秋葉原駅ホームにあるミルクスタンド「酪」は、いつの時代も食事に時間をかけられない忙しいサラリーマンたちの味方であり続け、うし年の今年、70周年の節目を迎えた。

オレンジ、イチゴなど、たくさんの種類の牛乳が並ぶ

 「いちご」。中年の男性客がぼそっと注文を告げると、女性の店員さんが「はいっ!」。冷蔵庫から取りだした「メグミルク いちご牛乳」を、百二十円の代金と引き換えに素早く手渡した。男性はこれを一気に飲み干すと、無言のまま瓶を返し、足早に立ち去った。この間、十秒にも満たない。

栓抜きを使ってキャップを一瞬で開ける

 この仕事を始めて五年ほどになるという店員さんは「顔を見ただけで何を注文するか分かる常連さんも多い」と話す。針の付いた器具で牛乳瓶のふたを一瞬のうちに外していた。「コツが分からないうちは苦労しましたけれどね」
 戦後復興期の一九五〇年に、雪印乳業(現・雪印メグミルク)の駅構内店として創業した「大沢牛乳」が運営する。一号店の御徒町駅に続き、秋葉原駅には五一年に進出した。
 総武線の千葉行き(六番線)と御茶ノ水行き(五番線)の二つのホームに店がある。支配人の稲村嘉一さん(68)によると、新型コロナの影響で鉄道利用者が減るまでは、多いと三店で計三千本が売れる日もあったという。
 開店当初は、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など五種類の雪印商品があるだけだったが、現在は十倍の五十種類が並ぶ。

ずらりとぶら下がる商品の短冊

 野菜ジュースや青汁など牛乳以外の瓶ドリンクのバラエティーが増えたほか、二〇〇〇年ごろから「ご当地牛乳」の充実を図っている。「地方から出てきた人が、ふるさとの牛乳が飲めたらうれしいはず」という思いからだ。「社長のイチオシ」は、岐阜県の「北アルプス厳選牛乳」(百六十円)。軒先に垂れる短冊には「甘さと風味が牛乳本来の味です」と宣伝文句が書かれている。
 昨年は開催を自粛したが秋葉原のご当地アイドル・AKB48の人気イベントにあやかった恒例の「ご当地牛乳総選挙」は地方の乳業メーカーが、首都圏に売り込みをかける登竜門として知られている。エントリーした五種類ほどの牛乳を客が試飲し、おいしいと思うものに投票する。「営業マンが魅力をしっかり説明できる商品が強い」そうだ。一昨年の第六回総選挙は、長野県の「信州安曇野牛乳」が一位を獲得した。
 昭和の時代、駅のミルクスタンドは日常の光景だった。稲村さんも池袋、品川、新橋などJRの主要駅だけでなく、私鉄駅でもよく見かけた。姿を消したのは、重くて危険を伴う瓶牛乳の運搬作業が嫌われたのではないか、と推測している。大沢牛乳はホームの高架下に事務所がある。トラックから下ろした牛乳は資材用のエレベーターで運べる。立地に恵まれた。
 売り上げのピークは、午前八時半ごろ。パンとセットで朝食にする人が多い。店では「あんパン定食」という言葉がある。常連になると、そう言っただけで好みを知る店員さんが、いつもの牛乳とあんパンをセットで渡してくれる。

あんぱん定食

 最近は、会社員だけでなく、秋葉原を訪れるオタクや以前はまず見かけなかった女性も立ち寄るようになった。牛乳を飲むため、わざわざ下車する人もいる。スーパーで買う紙パックの牛乳が当たり前になった時代に「瓶で飲む新鮮な牛乳は本当においしい」(稲村さん)ことが広まっているようだ。牛の歩みのようにゆっくりだが、確実に。
 文・浅田晃弘/写真・由木直子
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード


おすすめ情報

TOKYO発の新着

記事一覧