帰りたくても帰れない…コロナやパワハラで失職、駆け込み寺へ<夢見た果てに 追い込まれるベトナム人㊥>

2021年1月20日 06時00分
 労働力不足解消のため、政府が外国人労働者の受け入れをすすめる中、働きながら技術を学ぶ技能実習生などとして来日するベトナム人が急増している。まじめに働き、日本になじむ人たちがいる一方、犯罪に走る人も一部にいる。「豊かになりたい」と夢を抱いて来た日本で、彼らが見た現実とは何だったのか。コロナ禍の影響とは。現場を歩いた。

大恩寺の境内を読経しながら歩くベトナム人ら=埼玉県本庄市で

◆行き場を失い、寺にあふれるベトナム人たち

 吹き抜けの境内で、ベトナム人の男女が長机を囲み、昼食用の野菜丼を味わっていた。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため会話はせず、お米を一粒残さず平らげる。竹林を切り開いた山あいにあるベトナム寺院の大恩寺(埼玉県本庄市)は、生活に行き詰まったベトナム人たちの「駆け込み寺」だ。
 寺では、在日ベトナム仏教信者会会長を務める尼僧ティック・タム・チーさん(42)が昨年4月から、コロナ禍で困窮したベトナム人の受け入れを始めた。帰国を希望する人が相次いだが、チャーター便はなかなか飛ばず、順番待ちをする人々であふれた。
 最も多かった昨年6月には約60人、取材で訪れた同11月末でも約40人が寝泊まりしていた。緊急事態宣言が再び出される中、寺を頼る人は増加傾向にあり、1月中旬で44人に上る。

◆留学費用で借金、バイトがんばったら

 「もう日本で働きたいとは思わない。早くベトナムに帰りたい」。寺で暮らす1人、グェン・ユー・フンさん(24)は、2017年4月に留学生として来日し、千葉県内の日本語学校に通った。日本の建築会社に就職し、母国の家族の生活を支えようと考えていた。
 しかし、留学費用として借りた50万円の返済に追われる日々。弁当店などでがむしゃらにアルバイトをしたが、法律で認められる週28時間の勤務を超えてしまい、ビザが更新できなくなった。さらに昨春、コロナの影響で勤務する弁当店の経営が悪化し、辞めさせられた。
 昨年11月、自転車で走っているところを警察官に職務質問され、入管難民法違反容疑で逮捕された。仮放免となったが、住むあてがなく寺に身を寄せることに。「借金は何とか返済できたが、何のために来日したのだろうと思う」とつぶやく。

大恩寺の境内で食事をつくるベトナム人たち=埼玉県本庄市で

 ダン・ディン・トァンさん(24)は、技能実習生として昨年1月に日本へ。山形県内の建設会社で働いたが、来日前に伝えられた「とび職」と異なる事務作業もさせられた。同僚から「役立たず」「ベトナムに帰れ」などと連日罵倒され、8カ月後に会社を辞めた。生活費が底をつき、知人の紹介で寺を頼った。来日のために親戚と銀行から100万円を借りたが、まだ50万円ほど返済できておらず、寺で過ごしながら新たな仕事を探す。

◆強制送還されたくて犯罪に走る人も…

 在日ベトナム人の就職支援などを行う人材派遣会社「さくらインターナショナル」(東京都北区)の高瀬稔社長(75)は寺に通い、ベトナム人たちを支援している。高瀬さんによると、寺に身を寄せた中には、強制送還されたいがために窃盗などの罪を犯した人もいた。「国は労働力を補うために外国人を多く入国させたのに、支援が行き届いていない」と憤る。
 タム・チーさんは訴える。「コロナで日本人も大変だが、外国人はもっと大変な生活をしている。国は食料や帰国支援などを拡充してほしい」(天田優里)

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