入院拒否に罰則 対策の優先順位が違う

2021年1月20日 07時17分
 罰則を設ければ感染拡大を抑えられるのか、疑問は膨らむ。政府は感染症法を改正し、入院勧告に従わない感染者らに罰則を導入する方針だという。強権的な手法は人権侵害の懸念が拭えない。
 後手に回る菅政権の対応のまずさをごまかし、新型コロナウイルス感染症拡大による混乱の責任を国民に押し付けるつもりなのか。
 感染症法は、感染症が発生した際、国や自治体、医療機関、国民が取るべき対応を定めている。行政に許される規制を定め、人権に配慮しながら感染症を抑え込むための法律である。
 新型コロナの感染拡大を受け、政府が今国会への提出を予定する改正案の柱が、罰則の新設だ。
 入院勧告を拒否した感染者や、保健所の疫学調査を拒んだ人に対して罰則を設ける。罰金や懲役などの刑事罰を想定している。
 しかし、懸念と疑問が湧く。
 かつて感染症に直面した社会はハンセン病やエイズの患者、元患者へのいわれなき差別・偏見など著しい人権侵害を生んだ。感染症法が患者らの人権尊重を明記しているのも、その反省からだ。
 行政の指示に従わないからといって、刑事罰を科す発想は、人権を軽視し、法の理念に反する。
 厚生労働省の審議会では、改正案の罰則創設に異論が相次いだ。厚労省は「おおむね了承された」としているが、議論が不十分だと言わざるを得ない。
 無症状で検査を受けない人からの感染は問題となっているが、入院を拒否した人がどれだけ感染を広げているのか、罰則に感染拡大を防ぐ効果がどれほどあるのか、厚労省は詳細なデータを示していない。行政罰の過料にしなかった理由も明らかではない。
 仕事や子育て、介護などの事情で、入院や宿泊療養ができない人もいるだろう。誰がどんな場合に罰則の対象となるのか、判断の基準づくりも容易ではない。
 罰則を恐れて検査や受診を控えることになれば、逆に感染を広げかねない。入院や保健所への協力がなぜ必要かを十分に理解してもらう努力こそ欠かせない。
 新型コロナ特措法も自粛要請に従わない事業者に過料などの罰則を設ける。自粛で雇用が失われ、生活苦に陥る状況の改善こそ先決ではないか。確実な経営支援策がなければ納得は得られまい。
 「未知の感染症」への対応は、国民の協力が最大の武器となるはずだ。一足飛びの罰則導入は、対策の優先順位を間違えている。

関連キーワード

PR情報