フォントにまつわるホントの話 書体制作会社・フォントワークス 6500種以上
2021年1月20日 07時48分
私たちが日々の生活で何げなく目にする「文字」。その文字を商品として扱う会社がある。書体制作会社の「フォントワークス」(港区北青山)。文字(フォント)を売るとはどういうことなのか。
「私自身、最初はこんな商売があるんだって驚きました。ビジネスとすれば、ソフトウエアのライセンスという形ですが、今後はいろいろな展開が期待できると思っています」。フォントワークスの代表取締役社長・最高経営責任者(CEO)の原田愛さんは自社の仕事についてこう話す。
フォントとは、書体ともいい、デザインが統一された文字のこと。整然とした「明朝体」や太さが均一でくっきりした「ゴシック体」がよく知られているが、多種多様な特徴あるフォントが存在する。例えば、「ラグランパンチUB」は力強さと見やすさを追求した極太書体。フォントの数は同社で扱うものだけで約六千五百種類。世界全体では数え切れないという。
実は私たちは知らないうちに同社のフォントを見ている。例えば、「じゃがりこ」などの菓子パッケージや、人気ゲーム「ドラゴンクエストXI」に出てくる文字の一部がそう。また、各テレビ局が流すニュースやバラエティーなどのテロップやドラマのエンドロールにも数多く使用されている。
ちなみに、これまで最も注目を集めた製品は、アニメ「エヴァンゲリオン」のフォント。「当社の『マティス』という書体で、エヴァの世界観にピッタリだと選んでいただきました」と原田さんは説明する。
時計の文字盤からスマホ画面、炊飯器の家電液晶まで、シーンに適したフォントが必要とされる。原田さんは「今、人類が生きていく上で最も目にするインターフェース(機械との接点)が文字。そういう意味でも利益率が高いビジネスだと考えています」。
同社は一九九三年に設立。自社製品のほかに外部企業からの依頼も請け負う。課題は制作期間。一つの書体を開発するのに短くて一年、長ければ六、七年かかるというが、近年では商品のフォントやロゴマークを変えることで売り上げが倍増した事例もあり、業績は順調で昨年三月期の最終利益は四億八千二百万円。ゲームクリエーターやグラフィックデザイナーらとの個人契約も好調だ。
「これからは個人や企業がもっと自分の世界観を伝える時代が来ると思います。将来は毎朝、洋服を選ぶみたいに『今日のフォントはどれにしようかな』という生活ができるようになると楽しいですよね」と原田さん。個性や多様性が大切にされる現代社会。そう遠くない未来、スマホやパソコンで自分だけのフォントを持つのが当たり前の時代が来るのかもしれない。
◆誰かに好きになってもらえる書体を 書体デザイナー・森田隼矢さん
フォントを作る仕事とは、どのようなものなのか。書体デザイナー四年目の森田隼矢(しゅんや)さん(26)=写真、フォントワークス提供=に聞いた。
−志望動機は。
「大学で美術やデザインを学んでいて、授業で文字をデザインの対象として見始めたころから、文字の沼にはまっていきました」
−これまでの作品は。
「サントリーの『オランジーナ』という飲料をご存じですか。最初はアルファベットと数字だけあったのですが、文字を増やしたいと依頼を受けまして、ロゴを元に漢字や平仮名などを作りました」
−今作っている書体は。
「書体デザインディレクターの藤田重信さんの監修と指導の下、築地書体という金属活字をデジタルフォントとして復刻デザインする仕事をしています」
−よいフォントとは。
「適材適所が一番。使う場所に合っているもの」
−職業病は。
「コンビニは何時間でもいられます(笑)。この商品を自社の書体に置き換えたらどうなるだろうと、ついつい考えてしまって」
−新聞の書体について。
「どこも縦が八割ほどに扁平(へんぺい)になっているのですが、格好良いですよね」
−将来の目標と夢は。
「自分が発案してデザインした書体を出すこと。そして、誰かに好きになってもらえる書体を作れるように頑張りたいです」
文・谷野哲郎/写真・川上智世
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