「核危機は全ての人の問題」、核廃絶を訴える「ヒバクシャ国際署名リーダー」林田さん

2021年1月20日 10時08分

「核兵器は被爆者だけの問題じゃないと伝えたい」と話す林田光弘さん=川崎市高津区で

 核兵器の保有や使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約が二十二日に発効する。五十一の国・地域が批准したが、核を保有する大国や米国の「核の傘」に依存する日本は入っていない。長崎市出身の被爆三世で、「ヒバクシャ国際署名」のリーダーとして約千三百七十万筆の核廃絶の願いを国連に提出した林田光弘さん(28)=川崎市=は「核兵器の危機は被爆者のみならず、今を生きる全ての人に関わる問題。条約は核廃絶に向けた世界のスタートラインになる」と、その先を見据える。 (安藤恭子)
 「原爆に人生を壊された被爆者にとって、核兵器が国際法で禁じられた意味は大きい。ただ、戦後七十五年以上がたつ中で、条約発効の瞬間を迎えられず亡くなった多くの人たちの思いも受け止めています」
 米ロ中など核を保有する大国間で進まない核軍縮の現実も踏まえつつ、林田さんは静かな喜びを口にした。「五年かけて地道に街頭署名を集めた人たちもいる。これだけの数を集めた核廃絶の署名は他にない」。条約を後押しできた署名活動を誇らしくも思う。
 林田さんの実家は爆心地に近く、同級生の半数以上が被爆三世という環境で育った。被爆者は特別な存在ではない。祖父の武男さん(故人)も原爆投下後に勤労動員で市の中心部に入り、死体運びやおにぎり配給を命じられ被爆した。無口で怖い祖父が、小学校の宿題で体験を尋ねると「ほほがない人、皮膚がだらんと伸びた人がいた」と普段は見せない涙を流した。
 署名活動で全国を回る中で実感したのは、被爆者や二世にとっての、戦後の生きづらさだ。放射線を浴びた健康不安、就職や結婚の際の差別、地域での孤立がつきまとった。「生き延びた人たちの人生もめちゃくちゃにしてしまうのが、他の戦争被害とは異なる核兵器の被害。人間と核が共存できない根拠はそこにある」
 林田さんには、今の日本政府の姿が歯がゆく映る。「核兵器の非人道性を軸にした条約に無視を決め込み、世界の信頼を失いつつある」と感じるからだ。日本は核保有国と非核保有国の「橋渡し役」を自任している。「それならば、核兵器の危機に関する国際会議を開いても良いし、米国のバイデン新大統領を広島の資料館に招待しても良い。米国の同盟国であり、唯一の被爆国。日本にしかできないことがあるはずなのに」
 核兵器の問題は、核を持つ国と持たざる国の格差と分断を浮き彫りにする。放射線の健康影響を男性よりも強く受けるとされる女性に、心身の負担をより強いるジェンダーの問題も指摘される。林田さんは「人権をないがしろにする権力構造は核兵器に限らず、社会のあらゆる所にある。『個人の人生を見てほしい』『その構造を許さない』と声を上げ続けることに尽きる」と話す。
 今年後半にも長崎に帰るつもりだという。「これからは長崎の被爆者運動、それに多くの慰霊の場を継承していきたい。原爆の学びを小中学校の平和教育で途絶えさせず、大人になっても学び直しできる場もつくりたい。世代と人をつなげるハブとなってやりたいことが明確にあって、今はわくわくした思いでいます」
<はやしだ・みつひろ> 1992年長崎市生まれ。爆心地に近い浦上地区に育ち、高校生平和大使を務めた。明治学院大に在学中、安保法制反対に国会前で声を上げたSEALDs(シールズ、自由と民主主義のための学生緊急行動)の中心メンバーとして活動し、2016年から「ヒバクシャ国際署名」のキャンペーンリーダー。広島や長崎にゆかりの若者らが今年1月からSNSで発信を始めた「すすめ!核兵器禁止条約プロジェクト」にも参加する。

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