藤井聡太2冠への挑戦権懸けて激突 若手からベテランまで王位リーグの12人決定

2021年1月22日 12時30分
 将棋の藤井聡太王位(18)=棋聖=への挑戦者を決める第62期王位戦(東京新聞主催)は、リーグ入りした12人の顔ぶれが出そろいました。前王位の木村一基九段(47)、前期の残留組の豊島将之竜王(30)=叡王=ら3人に、予選を勝ち上がった20~30代の棋士8人が加わり、激戦が期待されます。予選決勝の様子や、リーグの組分け、見どころを紹介します。
 王位戦はリーグ戦で7番勝負に進出する挑戦者を決定します。12人が紅白の2組に分かれ、持ち時間各4時間の対局をそれぞれ総当たりで実施。各組の優勝者同士が挑戦者決定戦を行い、3位以下はリーグから陥落する仕組みです。同じくリーグ戦で挑戦者を決める王将戦と比べて入れ替わる人数が多く、若手からベテランまで多彩な顔ぶれがそろう傾向にあります。
 昨年12月下旬、全8組の予選のうち二つの決勝戦が東京・将棋会館で指されました。8組決勝は佐藤天彦九段(33)と高崎一生七段(33)による同年代対決です。先手の高崎七段は得意の振り飛車戦法でペースをつかみ、飛車を入手して馬を自陣に引きつける盤石の態勢。しかし終盤、受けに秀でる佐藤九段が先手の攻めをいなし、猛追します。ついに先手玉を追い詰めると、後手陣は左右バラバラに見えた金銀が玉の逃げ道を絶妙に確保し、逆転勝ちを収めました。

同じ九州出身の高崎一生七段(左)を下し、リーグ入りを決めた佐藤天彦九段

 佐藤九段は名人を3期獲得しているトップ棋士ながら、王位リーグ入りは4年ぶり2回目と意外な成績。「いろんな棋士と指せるのが王位リーグの醍醐味。今期は結果を出したい」と意気込みます。
 長く居飛車党だった佐藤九段は最近、振り飛車を積極的に採用しています。「AI(人工知能)による居飛車の研究は細かい差異を見いだす形になり、可能性が狭まってきたように感じる」のがその理由。「振り飛車のねじり合いの将棋に可能性の広さを感じる」とのことで、王位リーグでの戦法にも注目です。

飯島栄治七段(右)との激戦を制した長谷部浩平四段(左)

 3組決勝は飯島栄治七段(41)と長谷部浩平四段(26)の戦い。飯島七段は近年下火だった「横歩取り」戦法を武器に本年度、好調を維持。プロ入り3年目の長谷部四段は、その横歩取りで真っ向勝負を挑み、激しい空中戦となりました。
 中段に追われた飯島七段の後手玉が意外な生命力を発揮し、逆に先手玉を追い詰めたかに見えました。その瞬間、長谷部四段の華麗な攻めが一閃。瞬く間に後手玉を受けなしに追い込み、会心の勝利を手にしました。惜しい将棋を落とした飯島七段は、感想戦で「逆転したと思ったのになぁ」とぼやきが止まりません。
 長谷部四段は一昨年に続き2回目のリーグ入り。「(1勝4敗に終わった)前回は力負けが多く、ふがいなさが残った。少しでもリーグを盛り上げ、できれば藤井王位に教わりたい」と語ります。台風の目になれるでしょうか。
     ◇
 ほかの予選突破組では、元王座でA級棋士の斎藤慎太郎八段(27)が、6組優勝でリーグ初参戦。「王位戦はこれまで相性が悪く、今期は是が非でも抜けたかった」と喜びます。同じく関西所属のA級棋士、糸谷哲郎八段(32)や菅井竜也八段(28)らのひしめく「死の組」を勝ち上がっての悲願達成。端正なマスクで「西の王子」とも呼ばれる斎藤八段の、さらなる飛躍が期待できそうです。
 4組準決勝で優勝候補の渡辺明名人(36)=三冠=を破り、初のリーグ入りを果たしたのは、棋界では珍しい東大出身棋士の片上大輔七段(39)です。「渡辺名人戦は自分でも驚くような会心の1局。決勝では、東大の後輩(谷合広紀四段)と大一番を戦えることをうれしく思いました。リーグでは気負わず、良いところを出せるよう全力を尽くしたい」と語ります。
 そのほか1組優勝の佐々木大地五段(25)、2組優勝の近藤誠也七段(24)、5組優勝の池永天志四段(27)、7組優勝の澤田真吾七段(29)がリーグ入りしました。
 前期からの残留組は、年末に竜王戦を戦った豊島竜王と羽生善治九段(50)、王将戦に挑戦している永瀬拓矢王座(28)の3人で、充実ぶりが目立ちます。一方、前王位の木村九段は年頭の取材で「昨年は王位は取られるし、A級から落ちるし、最悪の1年だった」と苦笑い。「どう立て直すか試されている。元気のないところを人に見せないような成績にしたい」と、自虐を交えた“木村節”で巻き返しを誓いました。
 今年1月20日にはリーグ抽選が開かれ、紅白の組分けも決定しました。紅組は木村九段、豊島竜王、斎藤八段、佐藤九段、澤田七段、片上七段。白組は永瀬王座、羽生九段、佐々木五段、長谷部四段、池永四段、近藤七段という組み合わせになりました。
 大激戦となりそうなのが、A級棋士3人と前王位が集まった紅組です。このうち豊島竜王と斎藤八段は、順位戦のA級リーグでも名人挑戦権争いを繰り広げている最中で、2回戦での直接対決は要注目です。ダークホースは澤田七段。本年度の成績は22勝6敗、勝率7割8分6厘と、藤井王位に次いで全棋士中2位、連勝ランキング1位の14連勝もマークしています(1月21日現在)。王位戦とは相性も良く、好調を維持できれば、4期ぶりのリーグ優勝が視野に入ってきそうです。
 白組は永瀬王座、羽生九段の残留組に、20代の若手4人がどこまで迫れるかが見どころ。羽生九段は初めてリーグ入りした1993年度以降、リーグから1度も陥落しておらず(王位獲得が18期)、記録がどこまで続くかにも関心が集まります。
 若手の中で注目株は佐々木五段でしょうか。直近の3期でもリーグ入りしながら、いずれも陥落。しかしそのたびに予選を勝ち上がってくる執念は、王位3期を誇る師匠の深浦康市九段(48)をほうふつとさせます。今期こそは躍進を見せたいところです。ほかにも、藤井王位に順位戦で唯一の黒星をつけている近藤七段、昨年の新人王を獲得した池永四段と実力者がそろい、どこで下克上が起きてもおかしくありません。
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 最後に、待ち受ける藤井王位にリーグの感想を尋ねると「最近好調な方がそろったという印象。誰が挑戦してきてもおかしくない、手厚いメンバー」との答えが返ってきました。夏に開催する7番勝負に登場するのは一体誰なのか。2月に開幕する王位リーグにぜひご注目ください。 (樋口薫)
※この記事は東京新聞で毎月第2火曜朝刊に掲載されている連載「バン記者・樋口薫の棋界見て歩き」の1月分に加筆したものです。

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