ブラック霞が関 千正(せんしょう)康裕著

2021年1月24日 07時00分

◆政治家主導に振り回され
[評]小西徳應(明治大教授)

 日本の労働環境は激変期にある。男女共同参画、働き方改革、グローバル化やIT技術への対応などが急務だ。変化に対応できたとしても、より高い労働密度が求められ状況は悪化しかねない。コロナ禍がそれに拍車をかける。本書は、日本全体がそうした環境にある中、官僚の業務には別の深刻な問題が加わり、任務が全うできない実情を自身の体験を通して描くとともに、改善の必要性、さらに解決策を提示している。
 増員しないでいかに対処するかを説く「霞が関への10の提言」は、業種を問わず、ほぼすべての会社や団体に役に立つものだろう。テレワークやテレビ会議の活用などすでに始まっているものも多い。
 本書が最も強調したいことは、霞が関のブラック化とは直接関係がないように見える「永田町への10の提言」に表れている。「公務と関係ない発注の禁止」「国会議員の研修」などはわかりやすい(著者の主張はさほど単純なものではないのだが)。「委員会日程の決定と質問通告時刻の早期化・見える化」「議員立法は執行体制もセットで」などは実情を知らないと何のことかわからないかもしれず、逆に昔から言われていると思う人もいよう。
 議員が質問内容を関係省庁に事前に知らせることが「質問通告」で、国会で円滑な回答を得るためだ。だが通告が遅いため、回答準備に多くの手が取られ深夜残業が生じ、必然的に対応できる職員が限られる。他方、政治家・官邸主導が強調され、トップダウンで各省幹部に命令が下される。強いリーダーシップ発揮に見えるが、現場はその対応に振り回される。コロナ禍で、翌週月曜日から一斉休校だと木曜日に発表された際の全国的混乱が記憶に新しい。
 問題点も解決策もわかっていながら改善されない日本政治・行政が抱える構造的問題が横たわっている。国民の行動で政治家が変われば、官僚が国民のために働きやすくなる。国民が変わることでしか解決しない。本当にブラックなのは日本政治だとの著者のホンネが透けて見える。
(新潮新書・858円)
 1975年生まれ。元厚労省官僚。大使館勤務や秘書官を経験し、2019年退官。

◆もう1冊

新しい霞ケ関を創る若手の会著『霞ケ関維新』(英治出版)

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