AM1波とBSチャンネル削減へ どこへ行く「みなさまのNHK」事情通に聞く

2021年1月24日 06時58分
 NHKの二〇二一〜二三年度の中期経営計画には、受信料値下げのほか、AMラジオの第1と第2、衛星放送のBS1とBSプレミアムを、それぞれ一本化する方針が盛り込まれた。巨大組織のスリム化、構造改革には、NHKならではの番組が消える憂いもある。果たして「みなさまのNHK」として必要な改革なのか。事情通に聞いた。 (聞き手・鈴木学)

◆NHK元職員でお笑いジャーナリスト・たかまつなな(27)
 深い番組 出にくくなる

 元職員としては、チャンネル削減は専門的で深い番組が世に出にくくなることにつながり寂しい。一方で、二十代の視点からすると、削減されても全く影響はない。価値があると思ってもらい、受信料の支払いにつなげるのが法人としての在り方と思うが、NHKはその方向に行っていない。若者に届いていないし、寄り添えていない。
 チャンネル数の増減にかかわらず、もっと別のことに注力しないと、若い層には支持されない。私の世代がワクワクする企画であったり、フェイクニュースがあふれる中で正しい方向に導いてくれるニュースや番組であったり。ただチャンネルを減らすスリム化は、自分たちの力を弱めるだけの作業だと思う。
 NHKの民放化が指摘されている。チコちゃんが人気になり、第二のチコちゃんをつくろうと、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」みたいな番組をスタートさせている。それは、「クローズアップ現代」などを少なくしてやるべきなのですか、と言いたい。
 民放ほどではないが、NHKが視聴率を中途半端に気にすることが気になる。数字を気にする番組づくりで、NHKの信頼は落ちていく気がする。若い人に届かないメディアに未来はない。そうなることは日本全体、メディア全体で見てもいいことではないと思うのだけれど…。

◆ラジオ事情に詳しい放送作家・石井彰(65)
 第2削減 自殺行為

 ラジオについては、AM放送の第2(R2)を削減して、現在放送している語学講座などをネットに移すことを考えているのでしょう。
 ネットに移すことを一概に否定するつもりはない。ただ、ネットは環境に左右されたり、不得意な人もいる。「広くあまねく」という公共放送の意義から、「どこでも誰でも簡単に聴くことができる」ラジオこそ意義にかなっている。

ラジオ語学講座のテキスト

 また、英語、中国語だけでなく、スペインやロシア、ベトナム、インドネシアなど、多くの言語でニュースを放送していることは、多国籍化、多様化する日本社会にとって必然的な共生の流れだ。これを生放送中心の第1(R1)でも放送するつもりはあるのか? 「視覚障害ナビ・ラジオ」のような福祉番組、古典や朗読など、R2でしか放送できない貴重な番組が数多くある。
 そもそも今回の放送波削減計画は、NHKが赤字だから始まったことではない。毎年多額の剰余金がある現在、仮にR2を止めてもたいした削減にはつながらない。むしろ、多くの人が見ることができない8K放送の削減こそ制作費削減につながるのではないか。
 ラジオ放送波の削減は公共放送の自殺行為。災害時にR1を日本人向け、R2を外国人向けにもできる。NHK会長はR2をちゃんと聴いてますか? 聴いていたら、こんな計画を作るはずはないのだが。

◆テレビ番組に詳しいコラムニスト・吉田潮(48)
 BSスリム化 娯楽系弱まる?

 BS1とBSプレミアムが一つになると、何となくBS1寄りになる気がする。お金がかかる番組からリストラされるとしたら、大好きなドラマが対象になりそうで不安。配信サービスに比べて料金が高いNHKの衛星契約を結んでいるのは、BSプレミアムのドラマが大きい。4K映像でなくても中身さえしっかりしていれば平気だし、硬派なお芝居の放送も好みだし。

BSプレミアムのホームページ

 NHKのBSは現在四波。BSを見る世代といわれる年配の人からすれば「多いからまとめて」との声はあるかもしれないけれど、複数波があるから振り分けができ、エンターテインメントが充実した放送もできているように思う。BSプレミアムはドラマや演劇好きにとっても貴重。好きな番組も減るなら、契約を考え直さないといけない。
 コロナ禍だから受信料を下げるといえば、好意的に受け取られる。でも、楽しみが減るのであれば手放しで喜べない。テレビを持たない若い人は多く、スリム化を目指すのは潤沢な資金のあるNHKにしても、テレビ離れを真剣に考える段階に来たって気がする。
 一本化の是非は、中身次第だから今は言えない。個人的にはプレミアムが六割ぐらいで、エンタメ寄りになってほしいとは思う。エンタメ番組がなくなったら? いろんなところで悪口を書きまくって衛星契約も考えます。

◆コストダウンと質の向上を両立 中期計画で会長説明

 中期経営計画によると、BS1とBSプレミアムは23年度中に一本化。超高精細のBS4Kの普及状況を見極め、一つのチャンネルへの集約を検討し、BS8Kは東京五輪・パラリンピック後に在り方の検討を進めるとしている。ラジオはAMが2波、FMが1波の計3波あり、AMを統合して、25年度にAMとFMの計2波にする方向。第1を残し、第2のコンテンツは他の放送波やネットを使っての対応を検討する。

13日、記者会見するNHKの前田晃伸会長=代表撮影

 前田晃伸会長は「NHKならではのコンテンツに経営資源を集中させ、制作の総量を減らしてコストダウンを図りながらコンテンツの質を高める」と説明。削減には反発も予想されるため、ニーズを踏まえ視聴者の利便性を損なわないことに留意する。視聴率やコストなどの指標でチェックして番組の存廃を決めるといい、「高視聴率の番組も俎上(そじょう)に載せる」としている。
 受信料については、地上波と衛星放送の料金を一本化する「総合受信料」への移行も検討するとしている。20年度に値下げされ、現在、口座振替かクレジットカードで2カ月ごとに支払う場合の月額は、地上波だけの契約では1225円、衛星放送も見られる契約は2170円。

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