[わたしと森の動物たち] 愛知県豊橋市 江本陽葵(ひまり)(9)
2021年1月24日 07時52分
◆わたしの絵本
◆300文字小説 川又千秋監修
[この曲が弾けたら] 愛知県武豊町・パート・55歳 藤本知重子
この難しい曲に取り組んでほぼ一年。随分、長い時間を費やしたものだ。
そもそも音感もセンスもない私が、バイオリンを弾くこと自体に無理があるのだが、年のせいか五線や音符はちらついて、傍らの演奏記号など視野にも入らない。
ぎこちないくせにむきになり、五十肩の痛みに悲鳴を上げるといった具合である。
それでも少しずつ弾けるようになってきて、先生のお情けを頂ける前提でようやく合格できそうである。
そうなれば以前のザイツの曲の時がそうだったように、遥(はる)かなる時空を飛び越えて一通の手紙を受け取ったような気持ちになるだろう。
会ったこともないヴィヴァルディと心が通じ合い、彼は私の友人になるのだ。
お気に入りの勘違いである。
<評> バイオリン奏者の多くが、入門時、ザイツの旋律を繰り返し練習した経験をお持ちではないでしょうか。楽譜が目になじみ、運指法と運弓法が身についたら、さあ、いよいよ新たなる四季の世界へ!
[お父さんとメロンパン] 長野県飯田市・大学生・22歳 澤柳里香
こぽこぽこぽ…茶色の液体が滑り落ちていく。
ふんわりと立ちのぼる、濃い香りを味わいながらコップを三つ用意する。
珈琲(コーヒー)を待つ間に、袋からメロンパンを取り出す。私の大好物の、ふちが固いやつ。
サクッと、ナイフを通して切り分ける。ひとつを皿に乗せ、珈琲を手に隣の書斎へ。
ことり、と置いた音に大きな背中が振り向いたから、思わず尖(とが)った声が出た。
「これ」と突きつけて、足早に台所に戻り、小さく溜(た)め息をつく。
昔はもっと、仲良かったのになぁ。
どうせ一口か二口で、食べちゃうんでしょ。せっかく、一番ふちが固い美味(おい)しいところ、あげたのにさ。
お年頃の娘の気持ちなんて、きっとわかっとらんよねえ。お父さん。
<評> ほっと一息、心を和ませるはずのコーヒータイムですが、どうも、しっくりいきません。こんな時こそ、香り高い湯気で気持ちを温め、一声、明るく呼びかけてみてはいかがでしょう…お父さん!
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