ロシア、最高学府でプーチン政権への忖度が横行か 批判的とされる教員が相次いでクビに

2021年1月25日 11時55分

2018年5月、憲法に右手を置き大統領就任の宣誓をするプーチン氏=大統領府公式サイトから

 
 ロシアの最高学府の1つ、高等経済学院(モスクワ)で昨年、反政権派と目される教員が大量に職を追われた。「不適切な教育」を理由に、小中高教員の解雇を可能にする法案の準備も始まった。夏に完了した憲法改正を契機に、言論の封じ込めが教育現場で進んでいる。(モスクワ・小柳悠志)

◆SNSでプーチン大統領を批判して解雇

 高等経済学院での教員の雇い止めは28人。「研究成果の不足」や学部の再編成が表向きの理由だが、主要紙コメルサントは大部分は教員たちの政治主張が問題視されたと分析。大学当局に対し、解雇の撤回を求める訴訟も起きている。

高等経済学院を解雇された経緯を語るキリル・マルティノフ氏=小柳悠志撮影

 職を追われた教員の1人、キリル・マルティノフ氏(39)=政治哲学・メディア論=が取材に応じた。同氏は独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」の記者もしているが、会員制交流サイト(SNS)にプーチン大統領らを批判する投稿をしたところ、大学幹部にとがめられ、解雇を告げられたという。
 マルティノフ氏は「SNSで意見を述べるだけで、大学から放逐される状態は普通ではない。一昨年まで学内には言論の自由があったのに」と憤る。

◆プーチン氏の改憲に反対した教員も職を追われる

 教員の「人員整理」が進んだ時期は、憲法改正の進捗と一致する。
 改憲案は昨年1月、プーチン大統領が提起し、夏に承認され、発効した。統治機構の改革とプーチン氏の権力維持が争点だったが、憲法が定める国民投票ではなく、別の形式の「全国投票」で済ませるなど法的な問題点もあった。
 解雇された教員のうち、エレナ・ルキヤノワ氏(法学)は、こうした手続きの不備を指摘した数少ない専門家。昨年、本紙の取材にも応じ、プーチン大統領が最高法規を無視する状況を「憲法クーデター」と皮肉っていた。またノーバヤ・ガゼータも改憲の反対活動を続けていた。

◆「政府からの圧力ない」と高等経済学院

反政権派の教員の解雇が相次ぐモスクワの高等経済学院=小柳悠志撮影

 高等経済学院はロシアメディアに対し「解雇は政治的理由ではないし、政府からの圧力もない」と強調。ただ解雇された教員イリヤ・グリヤノフ氏(哲学)は「大学運営には国の補助金が不可欠。大学当局は政権に忖度そんたくして教員を管理下に置きたがる」と指摘する。また同校では昨年、学内規定を変更し、キャンパスでの学生や教員の政治活動を許さなくなった。

◆小中高の教員への政権の圧力も強まる

 小中高の教員に対する政府の圧力も強まっている。議会は昨年11月、小中高で憲法に違反する行為を授業中に呼び掛けた教員を免職とするための法案を準備すると発表。ただ、どのような行為が憲法違反に相当するか示しておらず、当局による恣意的な運用につながると懸念されている。
 改正後の憲法は、北方領土問題にも関わる「領土の割譲禁止」の条項も含まれており、日ロ関係の歴史的検証が教育現場で妨げられる可能性もある。

高等経済学院(HSE) ロシアでモスクワ大、サンクトペテルブルク大と並び称されるエリート大学。政治・外交・経済の研究が有名。自由な学風から「リベラル派学者の牙城」と呼ばれてきた。過去には反政権派の野党指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏を招いた討論会も開かれた。日本からの留学生も多い。

関連キーワード

PR情報

国際の新着

記事一覧