トップチームの魅力が球界全体を活気づける 野球日本代表用具提供メーカー<スポーツの力・アスリートと共に①>

2021年1月26日 10時00分
 コロナ禍で依然として先行きが不透明な中、東京五輪は開幕まで半年を切った。祭典に向けて準備を進めるスポーツ界を支える人や関係者もまた、今年の夏がどうなるか見通せない状況で、選手らと活動を続けている。アスリートと共に歩むスポーツにまつわる人たちに、五輪の価値、スポーツが持つ魅力を聞いた。

◆業界2、3番手から侍ジャパンとの契約奪取

 競技に欠かせないユニホームやシューズなどの用品。メーカーにとっても、五輪は成果をお披露目する舞台だ。大手のアシックスは、五輪で初めて野球の日本代表にユニホームなどを提供する。担当の和田竜路りゅうじさん(49)は「野球をさらに普及させるには絶好の場。最高のサポートをしたい」と意気込む。

日本代表のユニホームについて、素材の特徴などを説明するアシックスの和田竜路さん

 「コアパフォーマンススポーツ事業部アパレル・エクィップメントビジネスプランニング部長」。和田さんが、この長い肩書に見劣りしない大仕事を成し遂げたのは2017年5月。日本代表の運営会社「NPBエンタープライズ」とパートナー契約を締結。約1年に及ぶ下準備と交渉の末、他社の牙城を崩した。
 「これまでの業界の流れを大きく変えるため、ナショナルフラッグを取りにいった」。スポーツ界全体では国内最大手メーカーだが、野球では「2番手、3番手」だった。この現状の突破口として、日本代表に白羽の矢を立てた。

◆コロナで先行き不透明、五輪開催への葛藤も

 その後の19年のプレミア12で稲葉篤紀監督率いる日本は優勝した。さらに20年の東京五輪で悲願の金メダルを手にし、21年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも活躍する。減少傾向の競技人口を回復させ、事業を上昇気流に乗せる。和田さんが描いた青写真だ。その中で「五輪は野球ファン以外の注目度も高く、最も力を入れる大会」のはずだった。
 だがコロナ禍で予定は大きく狂う。事業では、女子も含めた全世代の代表をサポートする。競技振興のため、選手の学校訪問や野球教室なども行っていたが「大会やイベントが全くできなくなった」。選手やチームと同様、先行きは不透明になった。今の世界の状況で「むちゃして五輪をやるのは…」との葛藤かっとうもある。
 ただ、コロナ禍を通して新たな発見もあった。無観客試合でもインターネットで観戦できる手段が増えていたり、ツイッターなど会員制交流サイト(SNS)で試合と同時進行で視聴者が感想を語り合ったり。そういう観戦体験は「むしろ記憶に残りやすいのでは」と考えた。無観客など五輪が想定外の形で開催されても、ファンが野球を楽しみ、その結果として自社ブランドの認知度も高められる手法はないか、模索している。

◆スポーツの価値は勝敗だけじゃ無いと実感

 自身も小学生から野球をプレーしていた。最高峰の選手が集う現場で刺激を受けることが多い。プレミア12では強打者ですら四球での出塁で大喜びするほど、ぎりぎりの闘いの緊迫感があった。競技に対する意識の高さに感銘を受けることもあった。練習で人手が足りず、キャッチボールの相手に指名された時のこと。構えたグラブへ一直線に球威ある球が次々と収まり、基本中の基本でも手を抜かない姿勢が印象的だった。裏方にも感謝を忘れない稲葉監督の謙虚な人柄も、超一流の振る舞いとして脳裏に刻まれた。そうした姿は、スポーツの価値が「勝ち負け」だけではないことを教えてくれる。
 「トップチームが魅力的だからこそ、野球界全体が活気づく。こういう話がどんどん世の中に伝わればと思う」。五輪があるかどうかはともかく、日本代表の存在の意義深さと、チームを下支えする喜びを感じながら、これからも野球とアスリートに寄り添っていく。(対比地貴浩)

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