氷川きよしさんら大物歌手のデビュー見守った 老舗レコード店「天盛堂」閉店へ 店主高齢化にコロナ禍で【動画あり】

2021年1月26日 20時00分

演歌専門のレコード店の店内で笑顔を見せる「天盛堂」店主の三本木康祐さん(左)と勝子さん夫婦

 東京都江東区亀戸の演歌専門の老舗レコード店「天盛堂てんせいどう」が今月末で閉店する。ベテランから新人まで、年間100人以上の演歌歌手が名物の店内ライブで歌声を響かせ、「演歌歌手の登竜門」として親しまれてきたが、コロナ禍でライブは全て中止となり、全国から訪れる中高年の客も激減。三本木さんぼんぎ康祐やすすけさん(81)と勝子かつこさん(78)夫婦が二人三脚で守ってきた昭和の哀愁漂う店は、70年余の歴史を静かに終える。(嶋村光希子)

詰め掛けたファンを前に歌手が店内で新曲を披露するライブが名物だった

◆「最悪な時」店内ライブできず売り上げ打撃

 「寂しいね。良い時もあれば悪い時もあるのはしょうがないけど、最悪な時が来ちゃったよ」
 三本木さんはうつむく。演歌を中心に約5000のCDやカセットテープ、DVDを取りそろえるが、新型コロナウイルスの影響で昨年2月から客足が遠のき、売り上げは例年の7割減に。地元ホールで開かれるコンサートでのCDの出張販売もなくなった。持続化給付金は受けたが「乗り切るのは無理だった」と三本木さんは話す。

1月31日に閉店する店の前で手を振る三本木さん夫婦

◆演歌ファンに愛された店 「涙出る」と常連

 そもそもCD業界の販売不振は深刻だ。2人とも高齢で体調面の不安もあり、後継者もおらず閉店する決断をした。40年来の常連で、レコードをよく買い求めていた千葉県市川市の高橋利治さん(78)も「これだけの良い店がなくなるなんて涙出るね」と惜しむ。
 店は、初代で三本木さんの父、故・政光まさみつさんが、戦前の1938年に現在の江東区森下で蓄音機用レコード販売店として開業した。50年に亀戸に移転し、58年に三本木さんが引き継いだ。

演歌のCDやテープはもちろん、ポスターやサイン色紙が所狭しと並ぶ店内

◆藤あや子さん、純烈…人気歌手が続々来店で店内はすし詰め状態

 店内には着物姿の歌手のポスターやサイン色紙、歌手名が書かれたちょうちんやうちわなどのPRグッズが所狭しと並ぶ。新曲披露の場である店内ライブは、月の半分以上の日に開催。レジ前の一角で、高さ50センチ、幅1メートルほどの台をステージに見立てて行う。
 80平方メートルほどの店内には、立ち見も合わせて100人近く押し寄せたこともあった。ライブ後の歌手との写真撮影やサイン会も好評だった。これまでに天童よしみさんや藤あや子さんら有名歌手が来店。三山ひろしさんや山内恵介さん、純烈ら若手も訪れた。

◆大御所のデビュー見届けた

 「今や大御所の山本譲二さんや坂本冬美さんのデビュー当時を見守ったのが思い出深いね」と語る三本木さん。デビューを見届けた歌手の曲がヒットし、テレビにどんどん出演するようになるのがうれしい瞬間という。勝子さんは「全国各地から来るファンの皆さんにこちらが元気をもらえましたよ」とほほ笑む。
 氷川きよしさんもこの店でデビューを飾った1人。2000年に「箱根八里の半次郎」を発売した際、デビューイベントを開いた。三本木さんは「ファンが300人近く詰め掛けて、店に入りきらずに外まで並んでね。そりゃもう別格のスターだよ」と振り返る。それ以来、他の歌手と同様に氷川さんは夫婦を「お父さん、お母さん」と慕い、CDリリースのキャンペーンで来店するたびに親交を深めた。

店内で撮られた氷川きよしさんとの記念写真を手に交流を懐かしむ三本木さん夫婦

◆氷川きよしさんからメッセージ「世界一の店」

 今年に入り、閉店を聞き付けた氷川さんから驚いた様子で電話があった。「やめるんですか」。その翌日、レコード会社を通じて直筆のメッセージ入りカレンダーが届いたという。
 「亀戸天盛堂様へ 70年本当におつかれ様でした! 多くの方の心に音楽と励ましを送られ本当に素晴らしい世界一のお店です! ありがとうございました!」

閉店を知った氷川きよしさんから贈られた直筆メッセージ入りのカレンダーは店頭に飾られている

◆苦境の歌手へ思い寄せ

 勝子さんは「いろんな商売があるけど、音楽っていうのは気分も幸せで、すてきな仕事」と振り返る。三本木さんは「今は歌手の人たちが一番つらい思いをしている。なんとかコロナが収まるといいが…」と苦境に立つ歌手たちに思いを寄せ、今後はテレビの前で応援していくつもりだ。閉店までは店内商品を3割引きで販売し、歌手とファンへの感謝を表して最後の日を待つ。店は木曜定休。

氷川きよしさんからの思わぬメッセージに「びっくりした」と喜ぶ三本木さん夫婦



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