最高峰の試合を支える芝 五輪延期でも揺るがず整える池田省治さん<スポーツの力・アスリートと共に③>

2021年1月28日 06時00分
 スポーツの「舞台」を支えてきた自負がある。新型コロナウイルスの影響で東京五輪・パラリンピックは今夏に延期されたが、目の前の仕事に取り組む姿勢は揺るがない。大会のメイン会場、国立競技場(東京都新宿区)の芝生を管理する池田省治さん(68)は「必ず光は差す」と、その時を待ち続ける。

芝の管理について話すグラウンドキーパーの池田省治さん=東京都調布市の味の素スタジアムで

 昨年3月に決まった東京大会の延期をすぐに受け止め、「諦めずに全て最大限の努力をして、まい進する」と前を向いた。管理するグラウンドは国立競技場の他、サッカーなどが行われる味の素スタジアム(東京都調布市)や秩父宮ラグビー場(東京都港区)など30面以上にわたる。国立競技場は今月1日にサッカーの天皇杯全日本選手権、4日にはYBCルヴァン・カップの決勝の舞台となった。ボールの転がり具合などに目を凝らし、「良い動きをしていた。合格点」と親指を立てた。

◆「子どもたちが遊べる芝生、増えれば」

 グラウンドキーパーとしてのキャリアは30年を超え、今は自ら設立した会社「オフィスショウ」の社長として40人近くのスタッフを率いる。米国の著名なグラウンドキーパー、ジョージ・トーマ氏(91)に師事した経験が原点にある。その縁で米プロフットボールNFLの最高峰「スーパーボウル」の芝のメンテナンスにも関わった。
 国内外でスポーツの現場に関わり、「芝生文化」を日本に根付かせたいと強く感じた。「子どもたちが遊べる芝生がたくさんできるといい。そのきっかけづくりとして注目される一端を担っていければ」。東京大会で緑のじゅうたんの上を躍動するアスリートの姿を通じて、スポーツの魅力だけでなく、芝生の魅力が伝わることを願う。
 現場に立ち続ける中、年々増えつつある20代の若い後進たちの育成にも目を向ける。過去にNFLの大舞台で培った技術や、両立が難しい芝管理と芝の上でのイベントとのせめぎ合いをまとめた経験が、今では大きな財産になっている。グラウンドキーパーの認知度をさらに上げるためにも、注目される東京大会で「後輩たちに良い経験を積んでほしい」と話す。

◆「人間社会に欠かせないもの」

 個人的な思いもある。「芝生には特効薬がなく、小さいことの積み重ねが大事」と指導してくれたトーマ氏は、1996年アトランタ五輪のメイン会場の芝生管理にも携わった。同じように母国での五輪で仕事ができることに縁を感じている。
 「スポーツはフィールドの選手と客席が一緒に喜び合って、悔しがれる。しゃべらなくてもコミュニケーションが取れる。人間の社会には欠かせないもの」。池田さんはスポーツの持つ力、社会における価値について語り、コロナ禍の収束が見通せない中で、あくまで東京大会の開催を見据える。スタッフには「毎日の積み重ねが、困難な局面で試される」と声を掛けている。
 社会が閉塞(へいそく)感に包まれる今だからこそ、師匠のトーマ氏が伝えてくれた「笑顔を忘れるな」という言葉を胸に、日々真剣に芝生と向き合う。鮮やかな緑のグラウンドで繰り広げられるスポーツが、また新たな笑顔を生むと信じて。(唐沢裕亮)

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