本気の夢集え 板橋・常盤台に「トキワ−ソウ」 家賃など生活費すべて無料
2021年1月28日 07時17分
豊島区のトキワ荘といえば漫画界の巨匠たちが青春時代を過ごしたことで知られるが、板橋区常盤台に今月、夢に挑戦する若者たちのシェアハウス「Tokiwa(トキワ)−Sou(ソウ)」がオープンした。家賃などの生活費は全て無料というから驚きだ。ここではどんな夢を追いかけても構わない。問われるのは「その夢は本気か」だけだ。
シェアハウスは、人材育成会社「ひとづくり」(同区)が空き家だった木造三階建ての一軒家をCSR(企業の社会的責任)として運営する。風呂、トイレ、台所などは共同。個室は四つ。今は一人一室だが、コロナが落ち着けば相部屋になる。日本人初ルートで南極点に単独徒歩で到達したプロ冒険家の阿部雅龍(まさたつ)さん(38)が指南役となり、共に寝起きする。
「大都市・東京は家賃が高い。夢を実現するために東京へ出ても、暮らしを維持するために仕事をしていたなら本末転倒」と強調するのは、同社代表の鈴木雄二さん(53)。家賃と水道光熱費、光回線費、米そして、人間関係の潤滑油にもなるという焼酎が無料だ。ただし、誓約書には「全ての時間と稼いだ金を夢実現に注(つ)ぎ込む」と書かれ、夢が実現した時ばかりか、鈴木さんに本気でなくなったと判断されれば退去となる。
都内でウーバーイーツの配達員をしながら俳優の夢を追う井澤こへ蔵(ぞう)(本名・耕平)さん(26)は、「以前はバイトで稼いだお金はほとんど、生活費に消えていた。演技のワークショップに参加するにも三、四万円は必要で、あきらめたことも」と明かす。世界一のボクシングジム開設を目指す片山慈英士(じぇしー)さん(26)は、「都内のジムで働きたいし、人脈を広げたい。(他の挑戦者も)本気だから共感でき、刺激も受けている」とうなずいた。片山さんは昨年十月までペルーに滞在。コロナの影響でマチュピチュ村から七カ月間出られなくなるも、現地の粋なはからいで遺跡を独り占めで観光した日本人としてテレビにも取り上げられた。
鈴木さんは母や義父、愛犬の死が重なる中、感謝を伝えたい、残された人生をどう生きるか、と考えてきた。昨秋、白装束にすげがさ姿で千二百キロの四国遍路を巡った。体力の限界で動けなくなるたびに、地元の人から声をかけられた。中には目を輝かせ、「応援しています」と五百円玉を渡してきた女性も。感動した。
「見知らぬ人に、どれほどのことをやってきたか。このご恩を返さなければ」
以前から挑戦者を応援しようと考えてきたこともあり、シェアハウスの構想を固めた。十一月下旬から二十〜三十五歳の男性を対象に、募集を開始。十三人から応募があり、昨年末に面接で四人を選んだ。
見返りは一切期待しない。「約束できるのは挑戦する機会で、成功できるかではない。仮に夢がかなわなくても、挑戦にひるまぬ人材を育てたいし、その機会を提供したい」と目を細める。
Tokiwa−Souのフェイスブックでは、挑戦者たちの活動報告を日々公開しているほか、入居希望者も受け付けている。定員10人。
文・中村真暁/写真・戸田泰雅
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