本心<170>
2020年2月28日 02時00分
第八章 新しい友達
それが拡散して、こんなに人を呼び集めてしまっているのだろう。
「リアル・アバターって、ホントに何でもやるんだな。」という言葉が、どこからともなく聞こえてきた。
検索して状況を確認すべきだったが、見たくないという思いが、僕を引き留めていた。
無視し続けていると、会社から更(さら)にメッセージが届いて、とにかく、僕のページの出入金記録を確認してください、ともどかしそうに指示された。
訝(いぶか)りつつ見てみると、なんと、三百万円もの大金が振り込まれていた。
僕は目を疑った。二千人近くの人が、僕に入金している。――何だろう、これは?
喜びはなく、不安は一層大きくなった。岸谷の一件もあり、もしクラウド・ファンディングのようにして集められた前金だとしても――そんな仕組みはないが――、とても尋常な依頼の対価とは思えなかった。
一体、何が起きているのかを、教えてくれたのは<母>だった。
この日は三好が遅番で、僕は一人で食事を済ませ、就寝前に、リヴィングで<母>と向かい合った。
<母>は笑顔で――そう、僕は努めて下を見ないように気をつけ、実際にそれは、野崎の言った通り、効果的だった――、こう言った。
「朔也(さくや)、お母さん、全然知らなかったけど、あなたのこと、ネットですごく話題になってるわよ。」
「――何が?」
僕は、恐る恐る問い返した。<母>は、僕への嫌がらせを情報収集の過程で知っていて、しかもその意味を誤解しているのではあるまいか?
「知らないの?」
「知らない。……けど、あんまり知りたくないんだよ。」
「どうして? お母さん、あなたのこと、本当に誇らしく思ってるのよ。なかなか出来ないわよ、ああいうことは。昔から、あなたは優しい子だったけど、そのことをみんなに知ってもらえて、お母さん、とても嬉(うれ)しい。」
「……。」
(平野啓一郎・作、菅実花・画)
※転載、複製を禁じます。
※転載、複製を禁じます。
関連キーワード
おすすめ情報