高齢者の「死後の贈与」契約は「公序良俗に反する」 身元保証代行のNPO敗訴

2021年1月30日 06時00分
 身寄りのない高齢者の身元保証代行を請け負う愛知県内のNPO法人が、死亡した高齢者との贈与契約に基づき金融機関に預金の返還を求めた訴訟の判決が名古屋地裁岡崎支部であり、近田正晴裁判官は「公序良俗に反する契約で無効」として請求を棄却した。高齢者と身元保証代行団体との間で交わされた、死亡時の財産の贈与契約(死因贈与契約)を無効とする司法判断は極めて珍しい。
 身元保証代行は監督官庁がなく、契約の不透明さがしばしば指摘されていた。2016年には日本ライフ協会(東京)が高齢者からの預託金を流用していたことが発覚して破産し、社会問題になった。

◆「葬儀費用引き出せない」

 28日の判決によると、安城市のNPO法人えんご会(神谷邦子代表)は17年1月、市社会福祉協議会が運営していた養護老人ホームに入所中の80代女性と、身元保証や緊急時の対応などを支援する契約を約90万円で締結。さらに1カ月後、女性に「亡くなったときに預金が引き出せないと葬儀費用などが支払えない」などと事実と異なる説明をし、「不動産を除く全財産を贈与する」との死因贈与契約も交わした。
 女性は翌年死亡し、同会は碧海信用金庫(同市)に約620万円の預金の払い出しを求めたが、信金は契約書の不備や過去に同会と預金者の遺族とのトラブルがあったことなどを理由に拒否していた。

◆NPO代表「高齢者に寄り添った活動」と控訴へ

 近田裁判官は、身元保証を入所の条件にしないよう求める厚生労働省の通達に反し、ホームの入所者の半数以上が同会の身元保証代行サービスを受け、同様の死因贈与契約も行われていたことを批判。「身元保証代行の中身も不明確なのに、さらに贈与を求めたのは民法90条の公序良俗違反の暴利行為(相手の経験不足などに付け込んで不当な利益を上げる行為)に当たる」と判断した。
 判決後、神谷代表は「高齢者に寄り添った私たちの活動に対し、不当な判決だ」と控訴する意向を示した。

◆超高齢社会、支援のあり方に一石

 高齢者の身元保証代行を巡る不透明な契約を無効とした判決は、「おひとりさま社会」とも呼ばれる超高齢社会の中、身寄りのない人への支援の在り方に一石を投じたといえる。
 国は身元保証がないことを理由に入院や施設入所を拒否してはならないこと、延命医療などの医療同意については、本人が意思表示できない状態で家族もいなければ医療チームの協議で決めていいことなどをガイドラインで定め、「脱・身元保証」の流れをつくってきた。

◆病院や施設で身元保証求めるのは通例

 しかし今も多くの病院、施設でいざというときの対応への不安などから身元保証を求めることが通例になっている。
 高齢者の権利擁護に詳しい熊田均弁護士は、今回問題となった贈与契約が「全国的にみれば、氷山の一角ともいえる」と指摘。「サービスの提供者が利用者から利用料の他に金銭贈与を受ける場合、まして判断能力に不安のある高齢者である場合は、極めて慎重に進めるべきだ」と訴える。
 愛知県医療ソーシャルワーカー協会副会長の野田智子さんは「使いやすい成年後見サービスや、それぞれの病院、施設ごとのガイドラインづくりなど地域の連携を進めていけば、身元保証は不要になるはず」と強調する。だが現状では医療や福祉関係者の関心は決して高くない。「高齢者の権利の中心に第三者が入り込むことで、大事な一線を踏み越えてしまう怖さを感じる」と話す。(安藤明夫、鈴木渉太)

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