99%のためのフェミニズム宣言 シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー著

2021年1月31日 07時00分

◆支配ではなく解放求め
[評]林美子(ジャーナリスト)

 コンパクトな書物に大きな見取り図が描かれている。この社会で私たちは、ジェンダー、人種、国境など様々な境界線で分断されてきた。それらの分断といくつもの世界的な危機現象は、共通の社会構造の一部であり結果だと本書は主張する。その社会構造とは資本主義である。
 本書は、フェミニズムが反人種主義や環境運動、労働運動とつながり、資本主義と闘うことを宣言する。「99%」は、二〇一一年にニューヨークで起きた、富裕層に反対するオキュパイ(占拠)運動の標語を下敷きにしている。
 米国の著名なフェミニズム理論家、ナンシー・フレイザーら三人の著者は、多くの国々で女性の権利のための法制度が整っても、その実現が「残酷な空約束」にすぎない実態を踏まえる。批判の矢は反動的ポピュリズムだけでなく、より多くが進歩派新自由主義に向けられる。女性たちが経営陣の「内側に入り込む(リーン・イン)」ことを目指すリベラル・フェミニズムは「支配の機会均等」を求めるにすぎない。それはむしろ解放を求める運動の障害なのだ。
 原著は一九年の出版だが、コロナ禍後の世界にも十分通じる普遍性を持つ。たとえば低賃金不安定雇用の人々(多くは女性)の存在が、社会に不可欠な「エッセンシャルワーカー」として注目されるようになった。だが彼らの労働条件の根本的な改善はほとんど語られることがない。そんな現実をも本書は照らし出す。
 では資本主義ではないどんな社会をめざし、どうやって実現するのか。代替案の明示はないが、念頭にあるのはスペインで五百万人が参加した一八年のフェミニスト・ストライキなど、時代と国境を越えて続く女性たちのストライキである。家事や笑顔(感情労働)から撤退することでその持つ意味と力を社会に突きつけ、変革を迫るのだ。
 日本ではどうだろう。若い世代を含め、社会の変化を構想する活動が少しずつだが広がりを見せている。差異を直視し連帯を求める。本書はそのような未来に向けた想像力と行動をかき立てる。
(惠愛由訳、人文書院・2640円)
<C・アルッザ> 米ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(NSSR)哲学科准教授
<T・バタチャーリャ> パデュー大歴史学准教授
<N・フレイザー> NSSR政治・社会科学科教授

◆もう1冊

太田啓子著『これからの男の子たちへ』(大月書店)

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