混然一体で暮らす社会 『多様性を楽しむ生き方「昭和」に学ぶ明日を生きるヒント』 漫画家・文筆家 ヤマザキマリさん(53)

2021年1月31日 07時00分
 「昭和」の時代精神に光を当て、今を前向きに生きるためのヒントを探った。代表作の漫画『テルマエ・ロマエ』で古代ローマ人の暮らしを描いた流儀で、敗戦から一九八〇年代までの日本をユーモアを交えて描く。
 幼いころ、テレビをつければザ・ドリフターズが体を張って笑わせてくれた。探検隊が「ジャングルに猿人を探す」という俳優川口浩の企画は、うそっぽくても未踏の地への憧れをかき立てた。作家の開高健がモンゴルの大河で巨大魚を釣るCMには、子供でもしみじみとした。
 善悪の判断にとらわれることなく、真面目なものも不真面目なものも強烈な個性を放っていた。「ダイナミックな時代。間違えようと軌道からずれようと、みんなが寛容にそれを許していた」
 一九八四(昭和五十九)年、十七歳で単身イタリアに渡り、美術学校で油絵と美術史を学び始めた。その後イタリア人の夫の転勤に伴ってエジプト、ポルトガルなどの国々で暮らしたため、「平成」の印象は薄い。日本で思い出すのは八四年までの「昭和」の懐かしい光景だ。「懐古的になりすぎるのもよくない」と認めつつ「昭和という歴史に創作意欲を焚(た)きつけられる」と愛惜の思いが口を突いて出る。
 『テルマエ−』も“昭和愛”がにじむ作品だった。第一話で主人公である古代ローマの設計技師がタイムスリップするのは一九七七(昭和五十二)年の日本の銭湯という設定だ。「昭和だからこそ外国人が風呂に現れても受け入れられた。今ならだれも話し掛けないだろう。多様な人間が混然一体となって暮らすのが社会だ、という気持ちが、あの時期にはあった」。同調圧力に縮こまる「令和」の世との違いを際立たせた。
 海外での暮らしと世界史の知識を生かした国際色豊かな漫画を発表する一方、エッセーや評論、テレビでの発言と、一つの枠に収まらない活躍ぶり。「多様性を楽しむ生き方」を自ら実践している。近年は夫が暮らすイタリアとを行き来していたが、コロナ禍のためこの一年間、日本を出ていない。
 「歴史を見ておもしろいのは、危機は必ず乗り越えていること。ペスト、スペイン風邪、世界大戦…。復興しようという力はみんなに備わっている」
 コロナ後を見据えた言葉は心強い。小学館新書・九二四円。 (栗原淳)

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