「五輪があろうとなかろうと…自分たちはその先へ」 ラグビー7人制男子代表HC・岩渕健輔さん<スポーツの力・アスリートと共に⑤>

2021年1月30日 10時00分
 不断の努力を続けるアスリートを束ねる指導者も、コロナ禍の中で複雑な思いに揺れている。初のメダル獲得を目指すラグビー7人制男子日本代表ヘッドコーチ(HC)の岩渕健輔さん(45)も、その一人だ。満足に活動できない日々を振り返り「自分たちは何をすべきか、迷いが生まれた」と話す。

◆延期で盛り上がり急降下、失いかけた目標

選手と対話を重ねて指導する岩渕健輔さん(中)=2018年、サンフランシスコで(共同)

 代表チームは、五輪の延期が決まった昨年3月下旬に活動をいったん停止。2019年に開かれた15人制のワールドカップ(W杯)日本大会の成功に続く自国開催となる五輪も、盛り上がりは急降下した。選手も岩渕さんも大きな目標を失いかけた。
 W杯で活躍した福岡堅樹(パナソニック)やベテランが相次いで五輪をあきらめる事態もあった中、岩渕さんはオンラインで選手と対話を重ねた。掘り下げたテーマは「何のためにプレーするのか」。選手である前に社会の一員でもあることをわきまえた上で、なぜラグビーを続けるのかという根本的な問いに立ち返った。行き着いた答えは「五輪はあくまで目標。目的ではない。自分たちには、その先もある」。

◆「五輪は選手人生に大きく影響するが、全てではない」

 確かに五輪は大舞台だ。特に7人制の国際試合は日本で近年開かれておらず、久々に多くの自国ファンに勇姿をお披露目できる好機でもある。ただ競技の普及を考えれば、五輪以降も重要だ。「五輪は選手人生に大きく影響するが、全てではない」と岩渕さん。ある代表入り有力選手も「五輪だけが選手としての価値ではないし、そうあってはいけない」と胸の内を語る。
 もちろん代表を率いる身として、五輪へ向けてチーム強化に全力を傾けている。日本は16年のリオデジャネイロ五輪で、強豪ニュージーランドを破る大金星を挙げて4位と快挙を達成。だが帰国した空港には「誰もいなかった」と当時はゼネラルマネジャーだった岩渕さんは振り返る。15人制の15年W杯イングランド大会で南アフリカを破った時に熱狂で出迎えられたのとは大違い。五輪では、メダルの有無が世間の評価や印象を分ける現実を痛感した。
 今の課題は実戦不足だ。対戦相手さえ決まれば国際試合を組める15人制と比べ、7人制は16チームが参加するワールドシリーズへの出場が強化の中心。コロナ禍で移動が世界中で制限され、シリーズの開催は滞っている。

◆日本ラグビーの快進撃、東京でも実現を

 兼務する日本ラグビー協会の専務理事として、岩渕さんはチーム数や出場地域を絞るなど現行のシリーズの形式にとらわれない国際試合を模索中だ。二つの役目を担うが、「この状況なら全ての人が大変」と苦労を顔に出さない。
 昨年11月には国内で代表候補の紅白戦を、観客を入れて開催するなど少しずつでも前進している。15年W杯から続く日本ラグビーの快進撃を東京でも実現できると信じ、ピッチで会議室で知恵を絞る毎日だ。「選手は間違いなく前向きなプレーをして、19年W杯以上の興奮を見せてくれる。自分は一番そばにいて、何の心配も疑いも持っていない」。五輪があろうとなかろうとやることは同じ。これからもアスリートと共に歩む。(対比地貴浩)
=おわり

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