緊迫、過酷、偏見、切実…コロナ病院の現場を短歌に 救急専門医の男性が歌集

2021年1月30日 14時00分
 〈世の中の風当たりにも耐えるよう防護ガウンを今日も着込んで〉。大阪府内の病院の救急科専門医で、新型コロナウイルス感染者の治療にも当たる愛知県出身の男性が、歌人「犬養楓」のペンネームで、現場の日々を短歌にしている。2度目の緊急事態宣言が出され、全国で感染拡大が続く現状に「自分の歌を発信することで、人々の行動を変えたい」と語る。2月に第1歌集「前線」を刊行する。(松崎晃子)

◆「短歌研究新人賞」候補作に三十首の連作

 犬養さんは、短歌をたしなんでいた祖母の影響で、18歳で自分も始めた。身近な日常を題材に、インターネット上で発表してきたが、勤務先が感染者を受け入れるようになった昨春からは、コロナ禍を詠み始めた。昨年、三十首の連作が、短歌の大きな賞の1つ「短歌研究新人賞」で、新人賞、次席に続く「候補作」に選ばれた。
 冒頭の歌は、自身が感じる世間の偏見を表現した一首。医療従事者として、今回の事態に向き合わなくてはならないが、外出する人の減らない理不尽さや、緊張の続く過酷さに逃げ出したくなることもある。そうした思いを短歌にすると、生身のコミュニケーションでは言いにくい内容も「踏み込んで表現できる」と感じている。

◆「どこの病院も手いっぱい、特に救急医療が影響」

 緊急事態宣言が再度出された今は〈2時間後空いたベッドに滑り込む命を懸けた椅子取りゲーム〉のように、現場の緊迫度が増している。「これまでなかったような地域でも、医療圏を越えて搬送先を探す症例が出てきている。どこの病院も手いっぱいで、特に救急医療が影響を受けている」と見る。

2月に刊行される犬養楓さんの歌集「前線」

 歌集には、240首を収録。第3波に入ってからの歌はとりわけ切実だ。今の心境は〈マスクでも感謝でもなくお金でもないただ普通の日常が欲し〉。勤務先でも「本当に終わりが見えない」と痛感する。医師として「感染を防ぐ日々の心がけが大事。今の非日常が、全ての人にとって落ち着いた日常にかわっていくことを願っている」と語る。〈マラソンと同じさ遙かゴールまで次の電柱目指して走る〉
 「前線」は2月7日、書肆侃侃房から発売。1650円。

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